さらに残渣の処理まで必要になる。「泥が上がった」という技術的成功と、「商品を利益を出して販売できた」という商業的成功の間には、長い距離が存在するのである。
国家プロジェクトの評価では青函トンネルが、南鳥島との比較対象として興味深い。青函トンネルは、単純な運賃収入だけを見れば、東海道新幹線ほど優れた投資とは言い難い。
しかし、その価値は財務収益だけでは測れない。北海道と本州を恒久的に結ぶこと、貨物輸送を安定させること、悪天候による海上交通遮断のリスクを減らすこと、国土を一体化することなど、大きな社会的・国家的便益が存在する。
つまり、財務的な収益率が低くても、社会的・国家的収益率が高ければ国家事業として成立するということである。この論理は南鳥島にも適用できる。
ただし、その場合には「鉱山として儲かる」という説明ではなく、経済安全保障のために国民がどこまでコストを負担するのかという別の議論が必要になる。
1964年の東京オリンピックも興味深い。大会そのものの収益だけを見れば、その後の日本経済に与えた巨大な効果を説明することはできない。重要だったのは、オリンピックを一つの期限として、東京に必要だった社会インフラを一気に整備したことである。
東海道新幹線、首都高速道路、地下鉄、上下水道などが整備され、その後何十年間にもわたって日本経済を支えた。したがって東京オリンピックの経済性は、「入場料+観光収入」だけで計算するものではない。
その後数十年間利用される社会資本の価値まで含めて評価する必要がある。国家プロジェクトには、このような長期的外部効果が存在するのである。
万国博覧会も同様である。入場料、飲食、宿泊、交通、建設投資、企業投資、観光などによって巨大な経済波及効果が生まれる。しかし、ここで重要な注意点がある。「数兆円の経済波及効果」と「数兆円の利益」は全く違う。
経済波及効果とは、社会全体で発生する経済活動の総量であって、国家がその金額を回収するわけではない。南鳥島についても同じ注意が必要である。
「海底に何兆円分のレアアースが眠っている」という説明と、「そのレアアースを採掘して利益を出せる」という説明は全く別物なのである。地下あるいは海底に存在する資源の理論的市場価値を合計しても、それは鉱山の利益ではない。
宇宙ロケットは、さらに南鳥島に近い性格を持つ。ロケットの打ち上げ料金だけで、国家が投入した研究開発費をすべて回収することは難しい。しかし宇宙技術には、衛星通信、気象観測、測位、安全保障、精密加工、材料技術、制御技術など、巨大な波及効果が存在する。
さらに重要なのは、「外国に依存しなければ宇宙へ行けない国家」にならないための技術的自立である。これは国家が保有する一種のオプション価値である。南鳥島レアアース泥研究も、現段階ではこのカテゴリーに近い。
2026年、JAMSTECは南鳥島周辺海域において、水深約6000メートル級の深海からレアアース泥を連続的に揚泥する技術実証を進め、大きな成果を上げている。これは海洋工学、深海採鉱技術という観点から見れば、極めて重要な成果である。
筆者は、この科学技術上の価値を否定するものではない。むしろ日本が世界に先駆けて深海資源開発技術を蓄積することには、大きな意味があると考える。しかし問題は、その次である。技術的に採れることと、経済的に採れることは同じではない。