トランプと対峙する民主党有力候補4人に注目

民主党有力候補4人を、穏健派と台頭する左派の対立図式の中に位置付けてみると、①バイデン氏、②ブティジェッジ氏が党内穏健派で、③ウォーレン氏、④サンダース氏が党内左派という格好になる(後ろに行くほど左寄り)。特にバイデン氏とサンダース氏は、それぞれ穏健派と左派の立場を、自ら意識的に強調しており、この両者の存在を、今日の民主党が抱える亀裂の象徴と見る向きもある。

アメリカにある3つの国際秩序観

ところで、トランプ政権発足後のアメリカでは、世界におけるアメリカの役割や、国際秩序のあり方をめぐって、大きく3つの路線があるとされる。

第1の路線は、党派の違いを超えて長らく支持されてきた主流派の外交路線である。この路線は、民主主義や自由貿易を基調とするアメリカ主導の既存秩序を重視するものであり、軍事、経済、価値のすべての分野において、アメリカがリーダーシップを発揮すべきとする。トランプ大統領によって「破壊」されつつある既存秩序の「修復」を、今後のアメリカ外交の重点目標に据える姿勢も、この路線の特徴である。

第2の路線は、共和党の中で支持を広げつつある「アメリカ第一」の外交路線である。トランプ大統領に代表されるこの路線は、対外関与への消極姿勢、高関税政策の推進、民主化・人権促進への無関心といった特徴がある。アメリカ国内の諸問題を置き去りにしたとして、既存秩序に強い不満を示すのも、この路線の特徴である。

第3の路線は、民主党の中で支持を広げつつある「プログレッシブな外交」と呼ばれる路線である。2020年大統領選挙に向けて、党内左派のサンダース氏とウォーレン氏は、(苦手とされてきた)外交問題に関する発信を強化している。こうした中、今日の民主党では、主流派の外交路線とも「アメリカ第一」路線とも異なる「プログレッシブな外交」を求める動きが強まっている。

「プログレッシブな外交」は、民主主義・人権を重視する立場から、「アメリカ第一」路線を非難するが、これと同時に、海外への軍事介入や自由貿易を警戒する立場から、主流派の外交路線にも反対する。こうしたことから、「プログレッシブな外交」は既存秩序の「修復」ではなく、既存秩序の「改善」を求める立場と言える。

以上の3つの国際秩序観は、民主党有力候補4人の外交姿勢を考えるうえでも重要である。すなわち、今日の民主党では、主流派の外交路線と「プログレッシブな外交」の路線対立が鮮明になりつつあり、こうした亀裂は、有力候補4人の間にも見られるのである。

すでに述べたように、党内左派のサンダース氏とウォーレン氏は、「プログレッシブな外交」を主導する存在であるが、対照的に、党内穏健派のバイデン氏とブティジェッジ氏は、総じて主流派の外交路線に近い主張をしている。

中でも、バイデン氏とサンダース氏の両者は、外交政策の分野でも、党内の亀裂を象徴する存在になっている。1月3日のトランプ政権によるイラン司令官殺害以降、両者は外交政策に関する発信を強めているが、主張の中身はまさに好対照である。

バイデン氏は、自身の外交経験、各国指導者とのつながり、アメリカ軍関係者からの支持表明の多さなどを誇示し、トランプ政権の振る舞いによって傷ついたアメリカの地位をすぐさま再建するとの意向を前面に出している。

対照的にサンダース氏は、自身が政界アウトサイダーとして主流派の外交路線に異議を唱え続けてきたことや、海外への軍事介入に反対してきたことを強調し、アメリカ外交には変革が必要であるとの見方を鮮明にしている。

外交政策をめぐる民主党内の亀裂

こうした民主党内の亀裂は、各候補を支える外交顧問の顔ぶれを把握するうえでも重要である。というのも、民主党系外交専門家の間では、党内穏健派のバイデン氏とブティジェッジ氏に対して、支持表明をする動きが目立っているからである。