「検察庁法改正案」今さら聞けない大論争の要点

(1)解釈変更を行うにあたる立法事実が存在したのか(なぜ急遽このような解釈変更を行うにあたったのか)
(2)解釈変更を行う正当なプロセスが履践されたのか(後付けで行ったのではないか)
(3)なぜ政府参考人が矛盾となる答弁をしたのか(解釈変更はしていないとの答弁。後に言い間違えたと修正)
(4)解釈変更をするに際して、なぜ法務省行政文書取扱規則上の文書ではないと判断して、口頭決裁に留めたのか

といった疑問点が噴出した。そして、黒川検事長が政権に近い立場であったこと、次期検事総長として黒川検事長を任命するためには半年間の勤務延長をせざるを得なかったことから、政府が恣意的な人事のためにこのような解釈変更を行ったのではないかという批判が巻き起こったのである。

黒川検事長と改正法案の関係

しかし、結論から申し上げて、今国会の検察庁法改正法案の成否は、黒川検事長の人事の行方とは法的には一切関係がない。今回の改正法案の施行日は2022年4月1日である。

黒川検事長の誕生日は2月8日であり、すでに述べたように現行法のもとで政府は、2020年8月7日まで勤務延長することを閣議決定している。現検事総長の稲田伸夫氏は2018年7月25日就任であり、検事総長の平均在任期間は2年であることからすると、2020年7月25日までに退官されることが考えられる(もっとも稲田氏が平均在任期間を超えて在任し、定年まで勤務を続けるとすると、稲田氏が65歳となる2021年8月13日まで退官しない可能性もあるが可能性は低いだろう)。

以上を考慮すれば、黒川氏が検事総長になるかどうかは、そもそも施行されていない改正検察庁法の問題ではなく、むしろ稲田検事総長の退官次第ということになる。言い換えれば、今回の法案が否決されようとも、黒川検事長が検事総長になる道は開かれているということである。

なお、細かな点になるが、改正法案の附則に規定された一部検討項目の施行日が公布日からであるという指摘もあるが、この点は文言上何らかの法的効果を及ぼす措置が公布日から可能と解釈することはできないと考える。しかし、この点が何を指しているのかは国会の議論で答弁が引き出されることを期待したい。

では、この法案がはらむ問題とは何かを明らかにしていこう。

第1に、なぜ昨年までに準備されていた検察庁法の改正案から、役職定年の例外措置と勤務延長に関する規定が盛り込まれた新たな改正案が提出されたのか。その合理的な理由が明らかにされる必要がある。昨年までの当初案はシンプルに、定年年齢の変更と役職定年に関する規定が置かれるのみであったが、そこから役職定年への例外措置と勤務延長に関する規定が6項分追加されている。

法律家としての合理的な解釈をすれば、黒川検事長の勤務延長に関する閣議決定が多くの批判を浴びたため、行政府のみの判断に委ねず、立法府で真っ向から議論すべきであると考えて提出されたのであろうか。そうであれば三権分立の観点からしてむしろ望ましい姿であり、徹底的にその是非を討論していただきたい。

第2に、役職定年の例外措置と勤務延長が認められる場合の要件や運用基準等が未だに曖昧である点だ。事実として、改正案は検察官に関する一定の人事権を政府に委ねるという点で異論はない。政府は、「恣意的な人事介入が行われる懸念はない」と述べるが、この基準が曖昧なままでは結局政府への白紙委任という形になりかねない。これらの規定が適用されるケースとして、どのような場合を想定しているのか。むしろ、その解釈の基準となる要件や指針を明らかにすることで、「恣意的な人事介入が行われる懸念」を払拭するべきである。