4割が廃業危機「伝統工芸職人」の新しい突破口

東京都に住む大学生の山田璃々子さん(19)は「aeru gallery」を通じて「和ろうそくはじめてセット(小)」(税込1980円)を事前に購入し、イベント当日は職人の指導の下、自身のろうそくに火を灯した。「伝統工芸品は使うまでのハードルが高いが、職人さんに使い方まで教えてもらえるのがよい」と満足そうに話す。

中村ローソクではオンラインでの販売比率は現状10%程度。顧客層は年配の人が多く、「若い人とコミュニケーションを取る機会はほとんどなかった」(田川さん)。和えるとの協業をきっかけにネットでの注文も徐々に増えており、将来はオンライン販売比率を50%に引き上げたいという。

和えるはこれまでオンライン工房訪問を4回実施した。同社の従業員は20~30代が中心で、年配の職人と若年層を結びつける役割を果たす。京都と東京に実店舗も運営しているが、個人向けではネット経由の売上高は全体の7割を占めているという。

「日本では危機が起きたときに伝統文化は優先順位が下げられがちだが、文化がなくなると心が貧しくなる。こういうときにも安定して文化へも投資できるお金の回し方を提案したい」と矢島代表。この一環で自然エネルギーによる電気を事業者や一般家庭に販売し、電気料金の1%を日本の伝統文化を支えるための資金として使う「aeru電気」も始めた。

京都の伝統工芸品販売支援の動きも

「丹後ちりめん」で知られる京都府与謝野町の与謝野町染色センターなど2施設は7月中旬から同電気を利用し始めた。自治体への導入で信用力を高め、1万世帯への普及をめざす。

Creemaの京都伝統工芸品支援(写真:CreemaのWebサイトより)

また、手作り品の売買サイト「Creema(クリーマ)」を運営するクリーマ(東京・港区)では京都の伝統工芸品のオンライン販売を支援する事業を始めた。5月に開設した特設サイト「京都 手しごと紀行」には、京焼のコーヒーカップや清水焼のお皿など器を手掛ける14事業者が参加した。

クリーマの強みは月間3000万人超が訪問するというサイトの集客力だ。買い手の中心は「他にはない自分だけのお気に入りの品を探したい」という20代後半~40代の女性。職人は商品の写真などを用意するだけで手軽に出品でき、クリーマの担当者が写真の撮り方や紹介文の内容をアドバイスしている。

オンライン化のメリットは販路の多様化だけではない。クリーマの場合、出品に際して月額固定費はかからず、販売代金の10%の手数料(フード、自社海外サイト除く)を同社に支払うだけでよい。「30%前後」とも言われる百貨店の販売手数料と比べて安く、事業者が受け取る手取りも増える。

実はオンラインで伝統工芸品を売ろうという構想は「コロナ以前」からあった。しかし、単価が高い伝統工芸品は「対面販売でないと売れない」というのが業界の通説だった。職人側も「いいものをつくれば売れる」と考え、販売は百貨店や専門店に任せることが多かった。

実店舗依存からの脱却が成長のカギ

ふたを開けてみると、売れ行きは好調で「第1弾に参加した事業者の8割が『とても良かった』との回答があった。中には月100万円以上を売り上げる事業者もいる」(丸林耕太郎社長)。クリーマは器以外にもオンライン販売の対象を拡大し、7月17日には西陣織のネクタイや清水焼のアクセサリーなど26事業者が加わった。

伝統工芸品業界は職人の高齢化、後継者不足が深刻化しており、「コロナがなくても5~10年以内には廃業が増える」との見方があった。コロナ禍によって時間の猶予はなくなっている。ものづくりの伝統を大切にしながら、実店舗に依存する「一本足打法」から脱却できるかが、事業継続のカギとなりそうだ。