「伊能忠敬の働き方」が主流になる老いなき世界

宮本:僕は『ライフスパン』を読んで、成人式は20歳ではなく、30歳でもいいんじゃないかと思ったんです(笑)。社会に出る前に、大学やインターン、ギャップイヤーのための期間が10年ぐらいあってもいいんじゃないかと。だから、そういったスローダウンできる働き方はすばらしいと思うのですが、同時にそれは、誰にでもできる生き方ではないとも感じてしまいます。

岡橋惇(おかはし あつし)/LOBSTERRメンバー、ストラテジックデザイナー 。ロンドン大学(UCL)在学中にグローバルメディア企業でキャリアをスタート。卒業後、ブランドコンサルティング会社にて、ロンドン、香港、東京を拠点に幅広い業種のクライアントプロジェクトを担当。2016年9月に日本に帰国後、外資系コンサルティングファームに移り、ビジネスコンサルティングにクリエーティブやストーリーテリングを取り込んだプロジェクトを展開。 2019年からBCG Digital Venturesにて新規事業創出プロジェクトに従事。大学院大学至善館の特任助教授も務める(写真:石野千尋)

宮本:人生の中で「仕事をする期間」と「スキルアップや休暇のための期間」を繰り返すような生き方を、一部のエリート層のためのものにするのではなく、それが誰にでもできるような社会側のセーフティーネットも必要になるのではないでしょうか。

もしかしたらそれは、ユニバーサル・ベーシックインカムかもしれないし、あるいは脱成長コミュニズムのような考え方かもしれません。

佐々木:宮本さんの感覚はとても大事なポイントですね。例えば、アメリカは保険制度が整っていないこともあって、実は、平均寿命が縮まっている。制度からこぼれ落ちる低所得者層が出ているんですよね。

僕は楽観主義者で、人類にとって選択肢が増えるのはとにかくいいことだと考えるし、先端科学にブレーキをかけるのはよくないとも思いますが、やはりそういったことへの目配せは必要ですね。

岡橋:生き方、働き方のバリエーションが増えると、自分がやりたいことをやっている人と、そうでない人との分断が進み、格差につながるということは大いにありえますからね。『ライフスパン』もそこに言及しています。

身体的な健康のことはこの本でよく語られていますが、メンタルヘルス/イルネスも世界的な問題になっています。未来に希望を持てる人はいいけれど、そうでない人へのネガティブな影響もよく考えなければなりません。

高齢者が新しいカルチャーを生む時代

佐々木:社会にインパクトを与えるものに、消費の変化があります。いまは、例えば40代ぐらいまでに買った家に、ずっと住み続けるというのが一般的で、60~70代になると「攻めの消費」はなくなりますよね。

でも、消費というものは、自分の未来の所得が増えるだろうという期待に応じて増えるものですから、余命が長くなることによって、60~70代の消費が変化するでしょう。僕は若い世代だけでなく、高齢者が面白いお金の使い方をするようになると、世の中が豊かになるだろうなと思います。80代どうしの結婚式とか、マッチングアプリというようなマーケットも考えられますよね。

岡橋:それは面白いですね。新しいカルチャーは若い人から生まれるというのが定説だけど、高齢者から生まれたカルチャーが、下の世代に波及するということも起きるかもしれません。

宮本:Z世代は「物心ついたときにスマホがあった最初の世代」とよく言われますが、今後は「寿命が延びて100歳まで働けるようになった最初の世代」も登場する。その人たちが新しいカルチャーの担い手になるという可能性もありますね。