サッカーとラグビー「異例タッグ」実現の深い訳

コロナ禍ではイベント実施も難しいが、2019年までは年間のべ120回の多種多様な催しを展開してきた。複数試合に来ると押せるスタンプラリーは子どもに人気を博したし、夏休み恒例の目玉企画・鯱の大祭典では小中学高生を1万人招待。サッカーの楽しさを体感してもらう絶好の機会になっていた。

今月3日のJ1・ガンバ大阪戦が、相手チームのコロナ感染者発生で急きょキャンセルになった際も、スタジアム来場者に練習を公開するという粋な計らいを行った。そういう「ファン第一」の考え方は今の名古屋の哲学。そこは特筆すべき点だ。

「昨年はコロナ感染者数の変動によって観客上限が変動していた関係で、チケット販売開始を1週間前に設定することが多く、大がかりなイベントを準備することができなかったのですが、スタンプラリーやトークショーなどは実施しました。

コロナ禍での集客企画もヴェルブリッツさんと必要に応じて共有できると思います。ワクチン接種が始まり、徐々にコロナも終息に向かっていくことを望みますが、ラグビー新リーグが始まる2022年はまだ影響が残るかもしれません。それを踏まえながら、マーケティングを考えていくことはJリーグやラグビーのみならず、スポーツ界全体にとって重要だと思います」と清水専務は神妙な面持ちで語っていた。

名古屋の30年近いノウハウを学ぶことは有益だとヴェルブリッツ側も認めている。高橋一彰GMも「他競技との連携でさまざまな可能性が生まれる」と大いに歓迎している。

「われわれの拠点・トヨタスポーツセンター内ではグランパスを筆頭に野球部、女子ソフトボール部なども活動していますが、今までは横のつながりがやや乏しいところがありました。今回の連携が社内全体の結束強化、地域活性化につながり、地元やグローバルの人々に恩返しができれば理想です。地元のスポーツファンを掘り起こしていくことも将来の発展につながる。そうなるようにグランパスと足並みを揃えてやっていくつもりです」

ラグビーとサッカー、相互のファンを誘導

地域住民のスポーツ需要の掘り起こしという観点で言うと、サッカーとラグビーが協力体制を取ることは重要な一歩になる。愛知県は755万の人口を誇り、トヨタ関連従業員やその家族だけでも10万人をゆうに超える。相互に観客誘導を図ることは確かにプラスになるはずだ。

ヴェルブリッツの三好友博事業担当も「昨年11月のグランパスのホームゲームでヴェルブリッツの今季開幕戦のビラ配りをしたところ、サポーターの方から『ラグビーもぜひ見に行くよ』『応援してるよ』と温かい声をいただきました。われわれの選手が参加したトークショーも関心を持っていただいたようです。2019年W杯後にも選ばれた茂野海人・木津悠輔両選手に対して試合前にセレモニーとトップリーグ開幕戦の告知をさせていただきましたし、その協力にも感謝しています。

ヴェルブリッツのファンクラブも現在は一時休止中で、新リーグ発足後に再度立ち上げを予定しています。そのときにはグランパスのサポーターの方々の支援を得られるとありがたい。今はマーケティングの基本の基から学んでいるところです」と共闘体制に手ごたえをつかんでいる。

同じ豊田スタジアムをホームとする両社だけに、コラボできる部分は少なくない。今年は豊田市制70周年の節目の年。今季トップリーグ開幕戦・東芝戦はパロマ瑞穂ラグビー場が会場だったこともあり、4305人にとどまったものの、豊田開催であればより多くの動員を期待できる。それを名古屋とともに行っていけば、両者ともに固定ファンを増やせるはずだ。

こういった相乗効果は名古屋側も期待する部分。J発足時からのホームだったパロマ瑞穂スタジアムが改築工事に入り、今季からは豊田で全試合開催となることを踏まえても、潜在的なファン層拡大は最重要課題と言っていい。