YOASOBIが巻き起こす「メディア越境」の意味

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「YOASOBIの楽曲になるならば、男女の友情を描きたかったんです。人と人だと普通だから、モノ(マグカップ)を主人公にしようと思って、そこから物語を作りました。絵本にしては文字数も多いし、『絵本』というだけで手に取らない人が増えてしまうのはもったいないと考え、イラスト小説というパッケージにしたんです。10代のYOASOBIファンが、お母さんにプレゼントするような作品になったらいいなと思って」(鈴木氏)

楽曲制作過程において、物語についてYOASOBIの2人と話すことはなかったという。

「僕が小説を書いて、それを読んだAyaseさんが曲を作るという企画なので、完成するまでほとんどやりとりはしていなかったです。ただ、『素晴らしかったです、泣きました』と連絡があったので、作りがいがありましたね。楽曲の構成が小説に似ていたので、本当にすごいなと」(鈴木氏)

物語の中では、マグカップが幼いころからずっと一緒に生活してきた遥が大人になり、そこで流産というつらい経験をすることも描かれている。イラスト小説ながら、これだけ重いテーマを扱ったのはなぜなのだろうか。

「キャッチコピーは『お母さんだって、傷ついたことがある』にしました。僕たち夫婦も赤ちゃんが残念なことになるを経験していますが、本当にこれまでの人生で最も悲しい出来事だった。人の人生を描くときに、自分ごととして悲しいエピソードを盛り込みたかったんです。流産って、意外と確率も高いし『まさか自分が』と、誰しもが思うことだと思って」(鈴木氏)

若い売れっ子クリエイターと仕事を続けるために、普段から気をつけていることも聞いてみた。

「プライベートでも、20代の人と積極的に飲むようにしています。年下に対しては『おもしろいおっさんでいよう』と思ってます。

気をつけているのは、『仕事の話は会議中にする』ということ。飲みに行くときも、仕事相手と連れ立っていかない。テレビ関係者と仕事の流れで飲みに行くと、仕事の話の繰り返しになってしまうんですよ。プライベートの話だけ、と決めると、相手も自分も新鮮な気持ちでコミュニケーションをとることができます。お互い、普段の生活で知った面白いものを教わったり教えたりできるし、素直に尊敬できる」

同世代とつるまない理由

仕事以外のつながりを大切にし、とにかく若い世代の人と会うことで新たな知識を取り入れているのだという。

「僕はTikTokで何が流行っているかとか、自分で調べたことはないんですよ。人に聞いて教えてもらったほうが、スッと頭に入る。普段から、「人と会うときに『これ面白い!』って言えるようにしよう」という視点で生活すると、意識的に興味関心を広げることもできます」

鈴木氏が同世代とつるまないのは、ある理由があった。

「同世代と飲んでいて嫌なのが、『おっさんになった』って、自虐する人が多いこと。そりゃ、僕も老眼だし、腰も痛いけど、『そんな話ばっかりしてもしょうがないだろ』って、すごく腹が立つんですよ(笑)。僕は、『面白い』でつながる交友関係を大切にしたいんです」

確かに、年齢で自分自身を封じ込めても、いいことはあまりないのかもしれない。エネルギッシュに野望を語り続ける鈴木氏自身が、年齢と自分の限界には関係がないことを、証明しているかのようだった。