就活生を翻弄する「コミュ力」その意外な正体

企業の職場で社員は、多様な関係者とともに複雑な課題の解決に取り組んでいます。「関係者と協力して仕事を進めること」「複雑な状況を分析し、自分の考えをロジカルに関係者に伝えること」が、社員に求められるコミュ力のようです。

よく新入社員の導入研修で挨拶の仕方や名刺の渡し方などを教えるので、就活生(や研修講師など専門家)には、これらを企業が求めるコミュ力と勘違いする向きがあります。しかし、これらはコミュニケーションの「スキル」であって、「能力」として企業が求めるのは、もっと次元が高いものだと言えます。

ここまでの調査結果は、いろいろなメディアで報じられ、就活サイトでもよく言われていることで、おおむね納得していただけたでしょう。しかし、アンケートの最後に「最近の学生について感じること」を尋ね、興味深い回答をした6名にヒアリングをしたところ、少し意外なことを言われました。

「ロジカルな説明力を重視していますが、ロジカルに説明できたら採るかと言われると、そうとは限りません」(コンサルティング)

「さきほど説明したコミュ力は、学生の皆さんに最低限お願いしたいこと、という位置づけでしょうか。満たしていない学生は当然落としますが、実際に採るかどうかは、少し違ったところも見ています」(機械)

つまり、定義しているコミュ力は「足切り」のようなもので、実際には定義しているコミュ力とは違ったところで採否が決まる、というのです。では、企業は何を見ているのでしょうか。

求めるのは「話題に深みがある人」

「ロジカルな説明力」を重視しているという上のコンサルティング会社の人事部門責任者は、次のように語りました。

「さらに、相手の真意を引き出すための問いを発する力が感じられれば合格点です。また、『この人の話を聴いてみたい』と思わせるような話題に深みがある人は、言っていることが少し支離滅裂でも高く評価します」

このコンサルティング会社では、採否を分ける要素として「相手の真意を引き出すための問いを発する力」や「話題に深みがあるかどうか」を見ているというのです。

また、「他者と関係を構築する能力」を重視しているという上の素材メーカーの採用担当者は、次のように説明してくれました。

「よく『サークルの代表をしていて人脈が広い』とか自慢げに語る学生がいますが、趣味が合う相手と仲良くなるのは当たり前。それよりも、自分と考えが違う相手と冷静に意見を戦わせることができるか、対立と葛藤から新しいアイデアを生み出すことができるか、というワンランク上のコミュ力を期待しています」

この素材メーカーは、「自分と考えが違う相手と意見を戦わせること」や「対立と葛藤から新しいアイデアを生み出すこと」を求めています。

なぜ学生たちは翻弄されるのか?

ここで就活生の読者は、「定義していない要素で採否を決めるって、だまし討ちじゃないか」と思われたでしょうか。そうでもありません。まったく無関係なことではなく、その企業のビジネスや求める人材像と関連したコミュ力を見ているからです。

先ほどのコンサルティング会社のビジネスでは、顧客から真の経営課題を探り出すことが大切ですし、コンサルタントには顧客から信頼される人間性が求められます。「相手の真意を引き出すための問いを発する力」と「話題に深みがあるかどうか」はこれらと直結しています。

上の素材メーカーでは、20代の頃から新事業開発など責任ある仕事を任せており、年上の上司でも社外の相手でも臆せず自分の考えを発信できる人材を求めています。これが「自分と考えが違う相手と意見を戦わせること」や「対立と葛藤から新しいアイデアを生み出すこと」に繋がってくるわけです。

企業が求めるコミュ力は、最低限必要なものはかなり共通しています。しかし採否を分けるポイントは企業によって違うようです。「最も大切なコミュ力の内容は、企業のビジネスや求める人材像で決まってくる」というのが、今回の調査からわかったことです。