「最近疲れやすくなった人」に多い呼吸の仕方

(写真:PIXTA)
日々ストレスに追われる現代人は、「息を吸ってばかりで吐くことを忘れている」人が多いと語るのは、「スポーツでも世界最強」といわれるスタンフォード大学でアスレチックトレーナーとして20年間、選手たちの健康管理を担ってきた山田知生氏だ。パフォーマンス低下をもたらす「慢性的な疲れ」と密接に関係するのが「呼吸」であると、同氏は指摘する。本稿では、『スタンフォード式 脳と体の強化書』の著者でもある同氏が、疲れにくい体に変わる「腹圧呼吸」エクササイズについて解説する。

世界最強スポーツ集団が「呼吸」を学ぶワケ

スタンフォード大学での私の役割は、スポーツ医局のアソシエイトディレクター。スポーツ医局の方向性とビジョンを決め、医局で働くスタッフを統括しています。同時に現役のアスレチックトレーナーでもあり、これまで20年にわたり、長距離ランナー、バスケットボール、ゴルフ、野球など数多くの選手をサポートし、現在は水泳チームを専属で担当しています。

スタンフォードは世界の頭脳が集まるエリート大学。日本の方々はよくこのように言われますが、それはあくまでスタンフォードの一面にすぎず、実際は「文武両道の大学」。スポーツでも名門とされています。

最近の例を見るだけでも、この夏に開催された東京オリンピックにはスタンフォード大学から合計53名の選手を送り出し、私が担当している競泳では9名が参加、2つの金、7つの銀、3つの銅メダルを獲得しました。

また、オリンピック2大会で計5個の金メダルを獲得した女子水泳のケイティ・レデッキー選手や、アフリカ系アメリカ人女子水泳選手として史上初の金メダリストとなったシモーン・マニュエル選手など、プロスポーツの世界でも、多くのスタンフォード大卒業生が目覚ましい活躍を見せています。

スポーツ医局において大切なのは、「疲れが最小限になるように予防すること」「試合中に最高のパフォーマンスを発揮できるようにすること」、そして「試合後の回復を最大限にすること」です。

疲労は確実に、そして驚くほどパフォーマンスを下げる難敵です。その実態を、私は何度となく目にしてきました。そのため、アスレチックトレーナーはさまざまなメンテナンスのアプローチを試みるのですが、共通して用いるのが「腹圧呼吸」です。

腹圧呼吸とは、息を吸うときも吐くときも、お腹の中の圧力を高めてお腹周りを「固く」する呼吸法で、お腹をふくらませたまま(腹圧をかけたまま)息を吐くのが特徴です。ちょっと疲れているという選手も、慢性的な痛みがある選手も、ケガでリハビリ中の選手も、必ず腹圧呼吸を行いながらメンテナンスします。

「体内の圧力を高める」腹圧呼吸を実践することで、次のような効果が期待できます。

・腹圧が高まることで、体幹と脊柱が安定した正しい姿勢になる
・無理な動きがなくなり、パフォーマンスレベルが上がる
・リラックス状態をつくる「副交感神経」がきちんと働く

このような好循環を生み出し、疲労を含めたあらゆるダメージに強い体をつくる方法が、腹圧呼吸というわけです。

「息の吐き方」でコンディションが変わる

呼吸法の基本は、息を「しっかり吐ききること」です。自律神経は、息を吸うときには交感神経が優位になり、息を吐くときには副交感神経が優位になります。この「呼吸性洞性不整脈」と呼ばれる現象は、心拍の揺らぎ(心拍変動)の一因です。

息を吸って心拍が上がっても、きちんと吐いて心拍が落ち着く、これが繰り返されるならば問題はありません。しかし、さまざまなストレス要因にさらされ、つねに緊張を強いられがちな私たちは、交感神経が優位に傾きがちです。