社会と折り合う「ちょうどいいわがまま」の程度

生きづらさを抱える日本人に必要なのは、「わがままな生き方」ではないでしょうか(写真:Ushico/PIXTA)
いまの時代の日本人に必要なのは「わがままな生き方」だ――医師であり作家の鎌田實さんはそう言います。 ただ、人に迷惑をかけたり顰蹙(ひんしゅく)を買ったりするようなわがままではなく、「適度なわがまま」を追求するべきだそう。その「適度」とはどのようなものか。鎌田さんの著書『ちょうどいいわがまま』より一部抜粋・再構成してお届けします。
 

「ちょうどいいわがまま」とは

「ちょうどいいわがまま」という生き方が、いまの時代の日本人に必要です。残念ながら僕たちの国は経済大国から急激に下降線をたどっています。異次元の金融緩和のもと、「円安のほうが輸出はしやすい」なんて呑気に構えているうちに、その円安を利用されて、外国人に日本の土地やホテルやマンションを買いあさられるようになってしまいました。

こんな閉塞した時代にこそ「わがまま」が大事になるのです。「もっととんがれ!」のすすめです。「とんがれる人は、もっと、とんがっていい」と僕は思っています。腹を据えて、チャレンジをする姿勢しか、この国を元気にする方策はありません。

そのためにはまず、日本人が得意な「右へならえ」をやめること。それぞれが生き方を変えて、右へ向かう人、左を向く人、後ろを向く人、背伸びをする人、ジャンプをする人、ジグザグに歩く人……1人ひとりがユニークでおもしろい生き方をするように、少しずつでもいいから、軌道修正していくことが大事なのです。

「わがまま」と聞くと、プラスよりもマイナスのイメージが強いでしょう。いまの日本社会で「わがままに生きる」などというと、「周囲に迷惑をかける」とか「人間関係が壊れるよ」なんて忠告されたり、周囲から浮いてしまって、「生きづらい」「やりにくい」と感じるケースもあります。確かに日本社会は生きづらい!

世界幸福度ランキング47位

国連が設立した「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」が毎年発表する「世界幸福度ランキング」では、2023年には日本は総合点で世界47位なのです。GDPは24位と、かつてより大幅に後退しているものの、それでもまだ豊かな社会。しかも健康寿命は2位と、世界でも有数の健康長寿の国。それなのに幸福度は47位と先進国では下位の部類。それは、「個人の選択肢の自由」がなく、「社会の寛容性」が低いせいだと言われています。

ではなぜ日本には「選択肢の自由」や「社会の寛容性」がないのか? これはやはり、日本は同調圧力が強い国だからなのでは、と僕は思います。それを象徴するように、「空気を読む」「我慢は美徳」「出る杭は打たれる」など、日本語は「同調」を求める言葉に事欠きません。日本は「個人の自由」よりも「集団の和」を尊重し、波風立てず周りに合わせる人を評価する文化で、周囲に合わせられない人は「はみ出し者」のレッテルを貼られてしまう。

それが、他人が自分の行動をどう見ているかを意識し、「正しいかどうか」の判断は、常に「世間」によって決めるという傾向が強いのです。

人間は、自分でコントロールできない状態にストレスを感じます。いつも周囲に合わせて生きていると、肝心の自分自身を見失い、どんなふうに生きたいのか、どうすれば充実した人生が送れるのかわからなくなってしまう。自分の人生なのに、他人に気を遣ってばかりではつまらないものになってしまう。それが「生きづらさ」を感じる原因になっているのでしょう。

そこで「適度にわがままになろう」というのが本稿の趣旨です。

でも、「適度」というのが難しい……。そこでここでは、「適度」の幅を徐々に広げて考えていきたいのです。僕自身、こぢんまりとしたわがままではなく、いつかは同調圧力からはみ出し、「打たれにくい出る杭」になろうと言い聞かせ続けてきました。

「一度きりの人生、そのためには欲望を解放させよう」と、僕は自分自身に言い続けています。