「わずか8カ月」で出戻り転職した30歳男性の結末

人当たりの良い和宏さんは、退職には至ったものの、上司から「体調が良くなったらいつでも帰ってきてね」と言われるほどの良好な関係性を築くことができていた。B社の社風には合わないと確信していたこともあり、元同僚の誘いに乗る形で面談を申し出ると、なんと3日後にはZoomで面談することに。

「どんな空気になるか心配だったんですが、僕の顔が写った瞬間、上司が『わ、本当に三島くんだ!』と笑顔で喜んでくれたんです。おかげで、不安は一気になくなりました。その場で内定となり、B社は、試用期間内で退職することになりました」

極端に早いスピード感も、出戻り転職ゆえだろうか。

そして、仕事に適応するのが早いのも、出戻り転職の特徴だ。「復帰初月から普通に仕事をしていた」そうだが、その間に和宏さんが感じたのは、周囲からの感謝の声だった。

「上司からは『大黒柱だったから本当に助かる』と何度も言われました。これまで言われたことのない言葉だったので、『え、俺って大黒柱だったの!?』って正直とても戸惑いました。でも、言われるうちに『もしかしたら僕自身が、その言葉を寄せ付けない雰囲気を出してしまっていたのかもな』って思うようになりましたね。

そうやってコミュニケーションを重ねるなかで、上司に対する考え方も変わって。以前は、仕事の依頼が嫌がらせだと感じてしまっていたんです。僕にだけ仕事を振ってくるというか。でも、他の人にはできない作業だったり、自分が得意な業務を依頼してくれていると気づき、頼ってくれているんだな、と素直に思えるようになりました」

退職・出戻り転職をきっかけに感謝や称賛の言葉をもらうようになったというのは、なんとも日本人らしい話である。

心境が変わったことで、和宏さんの働き方にも明確な変化が生まれた。無理に仕事を受けず、自分の心身を気遣えるようになったのだ。

「仕事を断ることができるようになったのが大きな変化ですよね。前は断るという選択肢が僕の中にはなくて、依頼されたからにはやらなきゃって思ってたんですよね。でも、スケジュールやタスク量的に無理な場合は断るようになりました。

断って気づいたのが、自分ができない場合は他の人がやれるってことです。依頼する側はやれるかどうかを確認してくれていただけなのに、なんでNoと言えなかったんだろう、と今は思います」

体を壊して退職した経緯もあるため、周囲も仕事量には配慮をしてくれているようだ。和宏さん自身の変化も大きいが、もしかしたら、和宏さんという戦力を失ってから、周囲も反省したのかもしれない。

エンジニアという仕事への情熱を再確認

また、出戻り転職をしたことで、自分の中で新たな気づきがあったことも、和宏さんにとって大きな収穫だったようだ。

「仕事を休んでいるとき、ずっと、いろんなサイトを見たり、ゲーム会社の開発チームのブログを読んでいたんです。毎日、何かしら技術に関することを考えていました。そうするうちに、あるとき、『仕事じゃなくても考えてるな自分……』『それって、この仕事が好きってことだよな』と気づいたんです」

出戻り転職を経て、エンジニアという仕事に対するモチベーションをふたたび獲得した和宏さんだったが、しかし、B社に一度入ったことも、「とても大きかった」と振り返る。

「B社には、経費で勉強用の本を好きなだけ購入できる文化があったんです。もちろん以前から自分なりに勉強してはいたけど、勉強するほど『自分は知らないことが多すぎる……』と落ち込んで、目を背けることも多かった。もともと完璧主義な性格だから、『エンジニアを名乗るなら、完璧なエンジニアじゃないといけない』という気持ちがあって、完璧じゃない自分を直視するのが怖かったんです。