アマゾンが人事で「変わり者」を推奨する納得理由

OLPの中には入っていませんが、アマゾンで大事にされている「Peculiar」という言葉があります。Peculiarとは「風変わりな」とか「変わっている」という意味です。アマゾンでは「変わり者」であることが奨励されるのです。

アマゾンはもともと、「頭がおかしい」「変な会社」と言われていました。それこそ2000年ごろは借金だらけなのに投資をやめず、拡大路線を突っ走っていましたから、ウォールストリートでは「必ず倒産するだろう」と言われていました。アマゾンがやろうとしていることが、市場には理解されなかったのです。

だけれどもジェフ・ベゾスを筆頭にアマゾンの経営陣たちは、自分たちのやっていることは正しいと信じていました。その先にある、彼らがThink Bigした世界を実現しようとして、まっしぐらにそこに向かって努力した。それこそがアマゾンが、あの大赤字から黒字に転換できた原動力の1つなのだろうと思います。

そもそもジェフ・ベゾスもよく言っていますが、アマゾンの人間は、長期的に見れば正しいことでも、短期的に見ると「あの人何やってんの?」と言われることが多い。とくにアマゾンは、お客さまのためになることを長いスパンで計画する会社なので、いまこの瞬間だけを見ると、「あの会社バカじゃないの?」と言われるようなことがたくさんある。

だけれども、自分たちはそれが正しいと思ってやってきたし、それが結果として功を奏している。だからアマゾンの人間は、そういうふうにちょっと風変わりな人だと思われるくらいでちょうどいいのだと、ベゾスが言い始めたのです。2011年とか2012年ごろのことです。

ちなみに、アマゾンの本社ビルの入り口のエントランスには、アイスベアというニックネームのついたシロクマの祖先の骨格標本が飾ってあります。かなりの大きさで4000ドルぐらいしたらしいのですが、これをベゾスは自費で購入し「#Be peculiar」というメッセージとともに本社のエントランスに飾ったのです。

このクマは気候変動が起きても、いままでと同じ生活で同じものを食べ、同じ場所にとどまっていたため絶滅してしまいました。もし彼らが、南のほうに移動したり、食べたことのない植物や動物を食べたりする、ちょっと風変わりなクマだったら、ひょっとしたら生き残れたかもしれない。

つまりこの絶滅したクマを反面教師として、普通と違う、「お前、変わってるよな」と言われるくらいであることが、生き残るための1つの手段であるとベゾスは訴えたのです。

変わり者の証し、ペッキー

アマゾンのイントラネット上にある社員名簿「Phone Tool(フォンツール)」では、社内の資格を持っていたり、表彰されたりすると、社員の写真にアイコンが表示されるようになっています。そのなかにペッキー(Peccy)というゆるキャラみたいなアイコンがあります。

それはPeculiar(変わり者)であることの証明のようなものです。しかし決して悪い意味ではなく、アマゾンの人間は変わり者であることを求められているのです。

ペッキーのアイコンをもらうには、簡単なWebテストを受けなければいけません。「あなたがPeculiarかどうかを確認します」というテストがあって、10問ぐらい設問があります。これにイエスかノーかで答えていきます。全問正解すると「Peculiarです」と認定される。そしてフォンツールの自分の写真にペッキー(Peccy)のアイコンがもらえるのです。

それをもらえたからといって給料がアップするわけではないし、ましてや社外にも通用するような資格や肩書でもありません。でもアマゾンでは、Peculiarの体現者として一目置かれるのです。