TikTokのバイトダンス、「VR事業を縮小」の誤算

PICOはVRゴーグルを年間100万台販売する目標を掲げていたが、実績が伴わなかった(写真は同社ウェブサイトより)

VR(仮想現実)ゴーグルや関連アプリケーションの開発を手がける中国のPICO(ピコ、企業名は小鳥看看科技)が、事業の絞り込みと人員カットに踏み切ることがわかった。創業者でCEO(経営最高責任者)を務める周宏偉氏が、11月7日の社内会議で発表した。

PICOは、ショート動画アプリTikTok(ティックトック)の運営会社として知られるソフトウェア開発大手、字節跳動(バイトダンス)の子会社だ。バイトダンスは2021年8月、100億元(約2058億円)近い巨費を投じてPICOを買収。当時のVR投資ブームの過熱を象徴する事例として話題を集めた。

周氏の説明によれば、PICOは今後の事業の重点をVRのハードウェアおよびコア技術の開発に移す。それに伴い、販売・アフターサービス部門、コンテンツ作成部門、プラットフォーム開発部門などで人員を削減。モバイルOS(オペレーションシステム)部門については、バイトダンスのプロダクト開発部門に編入するとしている。

VRの成長を「楽観しすぎた」

「わが社の事業と市場の現状について再検討した結果、VR業界はまだ黎明期にあるという基本認識に立ち戻った」。周氏は社内会議の席上でそう述べ、産業・市場としてのVRの成長に対する以前の予測が楽観的すぎ、実際のビジネスが思惑通りに運ばなかったことを認めた。

今回の人員カットの対象者に対しては、社内の他部門に異動する機会を与えるほか、退社する場合には「合理的な補償」をするとしている。しかし周氏は、人減らしの規模については明らかにしなかった。

PICOはバイトダンス傘下に入った翌年の2022年、野心的な2つの目標を掲げた。主力製品のVRゴーグルの販売台数を年間100万台に引き上げることと、VRゴーグルの(アプリケーションを多様化して)1週間当たりのアクティブユーザー数を販売台数の50%以上に増やすことだ。

PICOに大量の経営資源を投入したにもかかわらず、バイトダンスはVR市場縮小の流れを変えられなかった。写真は北京の本社ビル(バイトダンスのウェブサイトより)

これらを達成するため、バイトダンスはPICOに対して大量の経営資源を投入して支援した。その結果、PICOの従業員数は買収前の300人から2022年9月時点で2000人に急増。マーケティングに関しては、TikTokの中国版の「抖音(ドゥイン)」でVRコンテンツを使ったライブコマースを積極展開したほか、VRゴーグルやコンテンツを実際に試せる体験型ショップを各地に開設した。

にもかかわらず、PICOのVRゴーグルの実売台数は目標に遠く及ばなかった。ネット上で巨大なトラフィックを動員できるバイトダンスをもってしても、リアルな商売で成功できるとは限らないことが立証された格好だ。

長年のボトルネック解消せず

市場調査会社のIDCのデータによれば、中国市場における2023年上半期(1~6月)のVRデバイス販売台数(出荷ベース)は約26万台と前年同期の半数以下に落ち込んだ。PICOはその間に約15万台を販売して6割近いトップシェアを獲得したものの、市場縮小の影響は避けられない。

本記事は「財新」の提供記事です

中国のVR業界は過去に複数回の投資ブームを経験したが、長年のボトルネックがいまだに克服されていない。コンシューマー向けVR機器の価格の高さ、利用可能なコンテンツの少なさ、得られる体験と(VR酔いなどの)快適性のアンバランスなどだ。そのため効果的な用途が限定され、VRの商業的ポテンシャルが発揮されない状態が続いている。

(財新記者:関聡)
※原文の配信は11月7日