アップルやアマゾンでも「失敗する」共通の特徴

いかにもクール、いかにもスティーブ・ジョブズらしい。そして、まさにそこに問題があった。

G4はアップルの顧客像と、彼らに最もふさわしいプロダクトを考えて設計されたのではなかった。G4のコストと性能、美観の組み合わせを形づくったのは、スティーブ・ジョブズの情熱だった。先鋭的ではあったが、アップルの顧客には似つかわしくなかった。G4は失敗に終わり、1年後に多額の損失を計上して、生産終了となった。

だが「逆から進める」方法も、右端のボックスに何が入るのかをしっかり考えておかないと失敗する。それをしなければ、どんなプロジェクトも計画立案の詳細と困難の嵐に翻弄され、もともと漠然としか理解していなかった目的さえもが視界から消えてしまう。するとプロジェクトは思わぬ方向に逸れ始める。

アマゾンのジェフ・ベゾスは、この危険を重々承知していた。そして、同社の経営理念の柱である「お客様へのこだわり」から逸れないために、巧妙な方法を考案した。

「最後」を「最初」に持ってくる

一般に組織では、プロジェクトが首尾よく完了し、社外に発表する準備ができると、最終ステップとして、広報部が2種類の文書を作成する。1つは、新しい製品・サービスがどんなもので、なぜ顧客に役立つのかをまとめた、ごく短いプレスリリース(PR)。もう1つは、価格や機能、その他の問題をよりくわしく説明した、「よくある質問(FAQ)」である。ベゾスがアマゾンで考案した方法は、プロジェクトの「最後」に来ることが多いこのステップを、「最初」に持ってくることだ。

アマゾンで新しいプロジェクトを売り込もうとする人は、まず短いPRとFAQを書く。PRの最初の数行で、プロジェクトの目的を打ち出さなくてはならない。その後行われるすべての作業は、このPRとFAQを起点として、逆から進められる(ワーキング・バックワーズ)。そして重要なことに、どちらの文書もわかりやすい言葉で書かなくてはならない。

「僕は『オプラ語り』と呼んでいたよ」と元アマゾン幹部で、ベゾスのために何度もPR/FAQを書いた、イアン・マカリスターが教えてくれた。「ほら、オプラ・ウィンフリー(テレビ番組の司会者)は、ゲストが何かをしゃべると、観客のほうを向いて、誰にでもわかる簡単な言葉で言い直してくれるだろう?」

平易な言葉を使うと、専門用語やスローガン、技術用語によって、欠陥を覆い隠せなくなる。思考がむき出しになる。曖昧な考えや、生煮えの考え、非論理的な考え、根拠のない考えがあぶり出される。

最初から全員の足並みがそろう

プロジェクトの売り込みは、経営陣との1時間の会議で行われる。アマゾンの会議ではパワーポイントのプレゼンテーションや、その他ビジネス界の一般的なツールが禁止されているから、PR/FAQを紙で配布し、最初に全員がそれをじっくり黙読する。それから最初の感想を出し合う。このとき、早いうちから他人の考えに影響を受けてしまわないように、立場が下の人から順に発表する。

続いて、提案者が資料を1行ずつ説明し、意見がある人は自由に発言する。「この細部に関する議論の段階が、会議の最も重要な部分だ」と、元アマゾン幹部のコリン・ブライアーとビル・カーは書いている。「厳しい質問が飛び交う。主要なアイデアと、それらを表現する方法をめぐって、丁々発止の議論がくり広げられる」

会議が終わると、提案者は出された意見を踏まえてPR/FAQを書き直し、それを再度経営陣に発表する。このときも同じプロセスがくり返される。次も。そのまた次も。何度も試行錯誤をくり返すうちに、提案はあらゆる面にわたって検証、強化されていく。また、これは関係者が最初から深く関与する参加型のプロセスなので、最終的に完成したコンセプトは、提案者からCEOまでの全員によって等しく明快に理解されている。最初から全員の足並みがそろうというわけだ。