プロ野球選手の年俸から考える“年功序列”賃金 日本企業の本質は“年序列”

 一方、巨人では、8月21日時点で打率.307、ホームラン32本の坂本(5億円)が、5打席の中で出塁したのは四球の1回のみ。あとは2三振を含む4打席凡退。「5億円ももらってヒット1本も打てないのかよ!」と毒づくことになる。

 また、中日先発投手の小笠原(2100万円)は、6回1死から阿部(1.6億円)とゲレーロ(4億円)に連続ホームランを打たれて降板したが、「8~20倍の年俸の打者に打たれたんだから仕方ない」と思ったり、小笠原をリリーフした祖父江(32歳、2900万円)が後続を打ち取ったけれど7回につかまって1点取られ、それを救援した3人目の又吉(29歳、6600万円)がそれ以降の失点を防いだことも、「祖父江は小笠原より800万円多く、又吉は小笠原の3倍以上ももらっているんだから当然だ」などと思ったりした。

 さらに細かくガイドブックを見ると、数億円の選手、数千万円の選手以外にも、1000万円以下の選手がかなりいる。先発では、巨人の二塁手の増田(600万円)や中日の二塁手の阿部(950万円)などだ。ほかにも多数、低年俸の選手がいる。

 そのうちの一人、中日の石垣雅海(21歳、540万円)が、5-1で負けている7回1アウトの場面で代打に出てきた。思わず、「ここで打ったら来年は1000万円だ、打てー!」と応援すると、見事に2塁打。「おおー、540万円の石垣が6.5億円の菅野から2塁打を打ったー!」と叫んでいた。

日本企業の月額給料の実態

 高校野球、大学野球、社会人野球などで活躍した、ほんの一握りの選手がドラフト会議で選ばれてプロ野球の世界に入る。そこでレギュラーの座をつかんで数億円の年俸をもらうスター選手は、さらに少なくなる。ガイドブックをみると、1000万円以下の選手がゴロゴロいる。また、たとえ数億円プレーヤーになったとしても、歳を取ったり怪我をしたりして活躍できなくなれば、情け容赦なく年俸は減らされ、場合によっては戦力外通告を受ける。完全に実力の世界であり、その年俸を保証するのは、結果を残し続けること以外に方法がない。これこそ本当の“年功序列”であると筆者は思う。

 一方、日本企業は本当に“年功序列”なのか? 図3に、厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」のデータを基にした、大学・大学院卒の年齢別賃金(月額給料)を示す。

 厚労省は上記調査結果で、賃金の男女間の格差(男の方が女より高い)、学歴による格差(大学・大学院卒>高専卒>高卒>中卒)、企業規模による格差(大企業>中企業>小企業)、産業別の格差(金融業が高く、宿泊・飲食などサービス業が低い)、正規と非正規の格差(正規が高く非正規は低い)等を問題視しているが、本稿ではこれらには触れない。というのは、上記のすべてにおいて(格差はあろうとも)、年齢とともに賃金が上昇し、50~54歳でピークアウトする結果は共通だからだ。

日本企業は“年序列”である

 改めて図3を見てみよう。20~24歳の男性で23万円だった給料は、年齢とともに直線的に増加していき、50~54歳の53.5万円でピークアウトする。その後、55~59歳にやや減少して52.3万円となり、60~64歳に37.8万円と大幅に減少する。これが、大学・大学院卒の男性社員の日本企業における典型的な年齢別の給料の推移である。

 これを見て、本当に“年功序列”といえるか? 筆者には“年序列”にしか見えない。日本企業では“功”の有無にかかわらず、年齢とともに50~54歳までは給料が上がっていくのである。

 筆者は、大学院の修士を卒業して1987年に24歳で日立製作所に入社した。その後、16年間、中央研究所、半導体事業部、デバイス開発センター、エルピーダ(出向)、セリート(出向)と部署を転々としながら半導体の技術開発に従事した。記憶によれば、入社から5~6年後の30歳に研究員(主任や係長クラス)となり、12年後の36歳に主任技師(課長クラス)に昇進した。日立中央研究所の同期入社が60人ほどいたが、ほぼ全員が同じ時期に研究員になり、主任研究員や主任技師に昇進したと記憶している。