「何のためのGo To トラベルか」利用者が高級ホテル等に偏り、中小旅館に恩恵薄く

 星野氏は長野県軽井沢町の温泉旅館で育った。夏は東京など遠くからのお客で賑わうが、それ以外の季節は農閑期の農家の人々など近隣客が泊まりに来た。こうした近隣需要が日本の観光を支えてきた。しかし、新幹線や航空路線、高速道路の整備で大都市から地方を訪れる客が増え、近年は外国人観光客が急増した。「もっと遠くから」という流れが続くなかで、近隣のお客さんに来ていただくという意識が薄れてきた。観光が、こうした本来の姿を取り戻し、サービスを強化する時間をもらえたらと考えるようになったという。

 日本の観光市場は約29兆円。このうちインバウンドは4.8兆円だけ。8割以上は日本人による国内の観光だ。日本人が海外旅行に使っていた金額も2兆円から3兆円に達する。こうした分が国内旅行に戻る可能性がある。今後1年半、国内需要を伸ばし新たな市場をつくることができれば、外国人需要を失っても、十分に乗り切っていけるのではないかと星野氏は考えた。「アフター・コロナを見すえた足腰の強い観光をつくれるのか。今後18カ月間が勝負の時だ」と星野氏は語っている。

菅政権の訪日客の目標は30年に6000万人

 マイクロツーリズムは地元で楽しんでもらうのが狙いだ。これがのちのちインバウンド誘致にもプラスに働く。地元の魅力を再発見してもらい、地元と旅行客の間の信頼を築くことが今後いっそう重要になる。まずは近場の小さな旅から再開し、少しずつ多彩な旅の楽しみ方を取り戻していこうという提案である。

 だが政府としては、そんな悠長なことは言っていられない。菅首相は官房長官時代に観光戦略を話し合う会議で、「2030年に訪日客を年6000万人とする目標を実現したい」と述べた。コロナ前の2倍だ。この実現に向けての第1弾が、Go To トラベルの実施であった。だが、利用者は特定の観光地に集中。安く泊まれるとあって高額のホテル・旅館に偏る傾向が強まった。有名な観光地にない中小のホテルや旅館からは、「何のためのGo To トラベルか」との不満の声があがる。

 その意味では、まず近場の客に力を入れるといいう星野氏のマイクロツーリズムの提唱は説得力があるのかもしれない。しかし、残された時間は、あまりにも少ない。

(文=編集部)