精神科医が語る徳川家康の「愛着障害」トラウマ連続の前半生、十代後半から戦闘に明け暮れ

 家康の小児期に関する資料はほとんど残っていないため、この診断が当てはまるか確認することは困難である。しかしながら、後年の家康の特徴である粘り強さや我慢強さは、この診断による症状(診断項目「A」)と関係があるようにも感じられるのである。

 現実の辛い、耐えがたい出来事に対して、人はしばしばすべての感情を遮断することで対応する。この行動は意識的なものではないが、時にはすべての感情が失われたような状態になる(これを精神医学では「情動麻痺」と呼ぶ)。

 そして家康が経験したような、診断基準「C」のような経験が繰り返し起きると、その個人は周囲に起きることすべてに対して、感情的な反応を示さないようになってしまう。

 家康が生涯にわたって感情的に動揺することなく、冷静に時を待って耐えることができたのは、確証はないがましかすると、「愛着障害」のメカニズムが働いていたのかもしれない。

 家康が、一向一揆や武士団の離反、そして嫡子・信康の自害といった危機的な状況も破綻なく乗り越えることができたのは、幼い頃の苦難と関連していたのであろう。

(文=岩波 明/精神科医)

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●岩波 明(いわなみ・あきら)
1959年、神奈川県生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。都立松沢病院などで精神科の診療に当たり、現在、昭和大学医学部精神医学講座教授にして、昭和大学附属烏山病院の院長も兼務。近著に、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?~再考 昭和・平成の凶悪犯罪~』(光文社新書)、『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春新書インテリジェンス)、共著に『おとなの発達障害 診断・治療・支援の最前線』(光文社新書)などがあり、精神科医療における現場の実態や問題点を発信し続けている。