新幹線、実は「摩擦力を使わず」止めている?知られざる電車のブレーキの意外な仕組み

 電力回生ブレーキの効きは強い。今日の新幹線の電車は通常、最高で時速320kmの超高速域から停止寸前まで、摩擦力を用いたブレーキの助けなしで止めている。いま国内で見られる大多数の通勤電車もほぼ同様で、おかげでブレーキシューやブレーキディスクといった摩擦力のブレーキに付きものの消耗品があまり摩耗せず、地球にも鉄道会社の懐にも優しい。

 省エネの度合いについては、JR西日本が関西の通勤路線で平均6.4両編成の電車を日中の1時間に4分間隔、つまり15本運転したときのシミュレーションを紹介しよう。同社によると、電車が消費する電力は電力回生ブレーキを用いたときが約2万8000kW時、用いなかったときが約3万9000kW時と約1万1000kW時の差が生じ、およそ28%分の電力の節約に役立ったそうだ。

 いま国内を走るほぼすべての電車や電気機関車では、電力回生ブレーキを作動させるためにはブレーキハンドルを操作すればよく、ほかに特別な扱い方はない。電力回生ブレーキと摩擦力を用いたブレーキとの切り替えもブレーキ装置が自動的に行ってくれるのでとても便利だ。

 ところが、電気ブレーキのなかで発電ブレーキの操作方法は、1980年代ごろまでに製造された一部の電車や電気機関車では少々異なる。何しろ、ブレーキハンドルではなく、加速用のマスコンで扱わなければならないからだ。

 古い電車や電気機関車のブレーキハンドルは、摩擦力のブレーキに必要な圧縮空気を管に込めたり、抜いたりする弁であることのほうが多かった。ブレーキ弁では発電ブレーキを操作できない。モーターを制御する機器はマスコンで操作するので、モーターを発電機に切り換える機能もマスコンに持たせてしまえばよいと考えられたのだ。

モーターのない車両はどうやって止める?

 さて、これまでの説明でお気づきのとおり、電力回生ブレーキや発電ブレーキはモーターが付いている車両でしか作動しない。よく、何両も連結した電車のすべてにモーターが装着されているように見えるが、実は10両編成の通勤電車では6両がモーター付きというケースが多く、なかには4両にしかないという例もある。

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東京都交通局の荒川線で使用されている7000形電車のマスコンハンドル。このハンドルで右斜め下の「切」位置から左斜め下に「電動」と刻まれている目盛りの位置へと右に回すと電車は動き出す。走行している状態でハンドルをさらに右斜め上の「ブレーキ」と刻まれている目盛りの位置へと右に回すと、発電ブレーキが作動する。荒川車庫にて 2009年10月21日 東京都交通局職員の立ち会いのもと筆者撮影

 高速で走る新幹線の電車はモーター付きの車両の割合が高くなる傾向は見られ、実際に九州新幹線用の800系やN700系は全車両に取り付けられた。だが、東海道・山陽新幹線を走る16両編成のN700系、N700S、それに東北・北海道新幹線で用いられるE5系、H5系はともに両端の先頭車にはモーターはない。明治時代から大正期の鉄道では必ずしもすべての車両がブレーキを搭載していなかったと前回紹介した。電力回生ブレーキや発電ブレーキは電車のブレーキとしては一般的な存在だが、やはりすべての車両に付いているとは限らないので、歴史は繰り返すという言い伝えのとおりだ。

 それでは、モーターのない車両ではどのようなブレーキを作動させるのであろうか。かつては摩擦力を用いたブレーキをかけていた。それから、山陽新幹線を走る700系という車両は電磁誘導ブレーキの一種である渦電流ブレーキを作動させている。けれども、強力な電力回生ブレーキはモーターのない車両の分のブレーキ力を補って余りあり、いまでは何のブレーキをもかけず、停止間際のわずかな間だけ摩擦力を用いたブレーキに頼るという例がほとんどとなった。