新幹線、実は「摩擦力を使わず」止めている?知られざる電車のブレーキの意外な仕組み

電気ブレーキにも弱点

 欠点の少ない電気ブレーキにも弱点はある。非常時に作動させ、効き目も通常のブレーキよりも強めな非常ブレーキには採用されづらいという点だ。それでも、発電ブレーキは比較的動作が確実なので、摩擦力を用いるブレーキと組み合わせて非常ブレーキとなっていた。

 しかし、電力回生ブレーキは摩擦力のブレーキと組み合わせて非常ブレーキとなることすらほぼない。電力回生ブレーキは近くに電気を消費する他の電車がいないと作動しないからだ。架線に戻された電気が最終的に向かう変電所に抵抗器を置いて万全を期したところも見受けられる。しかし、確実性を求めるため、非常ブレーキは摩擦力のブレーキだけで作動させるケースがほぼすべてだ。

 今日の新幹線の電車の非常ブレーキも摩擦力を用いたブレーキだけが用いられている。新幹線の変電所には抵抗器が設置されたところもあり、非常時には摩擦力のブレーキと組み合わせられれば、いまよりも強力なブレーキで停止させられるはずだが実現していない。

 というのも大地震が起きたとき、新幹線では架線への送電を即座に止め、列車が自動的に停止できるシステムが採用されたからだ。せっかく電車で発電された電力も、架線が停電していて流れる先がなければ、何にもならない。

(文=梅原淳/鉄道ジャーナリスト)

●梅原淳/鉄道ジャーナリスト

1965(昭和40)年生まれ。大学卒業後、三井銀行(現在の三井住友銀行)に入行し、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。『新幹線を運行する技術』(SBクリエイティブ)、『JRは生き残れるのか』(洋泉社)、『電車たちの「第二の人生」』(交通新聞社)をはじめ著書多数。また、雑誌やWEB媒体への寄稿のほか、講義・講演やテレビ・ラジオ・新聞等での解説、コメントも行っており、NHKラジオ第1の「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。