「前例のない問題を自律的に考え回答するAI」など、出現のメドすら立っていない

 このページから引用した、児童書の紹介文の最初の1文をGoogle翻訳で、アイルランド語にしてみます:

「前例のない問題を自律的に考え回答するAI」など、出現のメドすら立っていないの画像2

 ちゃんと自動検出でアイスランド語と判定されていますね。何百もの言語のどれで書かれているかを判定する課題は、翻訳とは似て非なるタスク。でも、Google翻訳が対応している百数十の言語のどんな文を見せても、瞬時に同等以上の精度でどの言語か判定できる日本人がいるとは思えません。翻訳結果ですが、うーん、合っているかどうかさっぱりわかりません。そこで、アイルランド語の翻訳結果を日本語に再翻訳してみます。

「前例のない問題を自律的に考え回答するAI」など、出現のメドすら立っていないの画像3

 不自然な日本語ながらも、児童書を紹介する文章の冒頭のようです。おそらく合っているのではないでしょうか。2回翻訳にしては大きくはずれていないという評価をしても良さそうです。

 翻訳となれば、両方向を加味すれば、150の言語なら2万2500種類の翻訳方向すべてについて、瞬時に、同等以上の精度で人間が翻訳できるかという話。膨大な言語対の正解データを巧みにトレーニングに活用したAIに、人間がかなうはずありません。でも、それでAIに恐怖心を抱きますか? 本連載の2回目で「肉眼より細かいものが見えるからといって電子顕微鏡に嫉妬しますか?」と問うたのと本質は同じ質問です。

「AIで」が増えてきたのは良い傾向

 英語と違って、日本語では無生物主語はあまり使われません。英語では、“The key opened the door.”と普通に言えますが、直訳の「その鍵がドアを開けた」と言ったら、文法的には正しくとも、外国人のおかしな発話のようだといわれることでしょう。「その鍵【で】ドアが開いた。」が正しい日本語です。もちろん、鍵に特別な意味を込め、特殊な注目を集める文学技巧、あるいは大江健三郎氏のような翻訳調文体の演出では「その鍵がドアを開けた」が使われることもあるでしょうが、いずれにしても、鍵【で】が自然な日本語であることを前提とした特殊効果です。

 久しぶりに、Google Web検索で、“AIが” vs. “AIで”の比較をやってみました。これは、自然で正しい英語では、“for”か “to”か迷った時によく行う件数比較で、独力で(ネイティブの力を借りずに)軍配をあげる手法にならったものです。極端な差がついた時、マイナーな方は日本人の誤用だけだった、なんていうこともありました。

 結果は、こうなりました。

・“AIが”:約 10,300,000 件(0.74 秒)

・“AIで”: 7,920,000 件 (0.55 秒)

 数年前のデータを保存してなくて申し訳ありませんが、記憶によれば、当時より現在のほうが、“AIで”という記述が増えて、差が縮まっているといえます。AIは道具である、と2014年頃から各種講演や原稿でアピールしてきたのが浸透してきたのであれば非常に嬉しいです。もっとも、“AIで”は多くは道具の意味ですが、「あれは“AIで”、こっちは人間だ。」という文のこともあれば、「“AIで”酷い目にあった」という文がヒットしたものも含まれます。“AIのせいで”という意味だから道具ではありません。それをいうなら、“AIが”も主語とは限らず、「私は“AIが”好きだ」という目的語のこともあります。「“AIが”使われた」という受身形でも、目的語です。

 ですので、あくまで、近似的に、AI=道具と捉える人の割合が増えたのでは、という仮説の根拠であります。ちなみに、

・“人工知能が”:約 3,960,000 件 (0.80 秒)

・“人工知能で”:約 830,000 件 (0.51 秒)

ということで、こちらは、まだ4倍以上の差があり、少しがっかりしました。