ネットで誹謗中傷、損害賠償300万円支払った人の本音…「恨みだけが残った」

 もちろん、示談交渉はもとより、訴訟にもつれ込んだとしても、原告・被告のいずれも弁護士を雇わなければならないわけではないので、自分で対応することは可能だ。ただし、膨大な時間と労力を要するのは間違いない。

本人訴訟は「プロのボクサー相手に素人がリングに立つようなもの」

 裁判では、弁護士をつけない「本人訴訟」も数多く行われている。2018年版の『弁護士白書』によると、1992年から2017年までの地方裁判所での裁判における弁護士関与率は、概ね8割で推移している。裏を返せば、残りの2割が原告・被告双方が本人訴訟というわけだ。原告・被告どちらか一方だけならば、約63%が本人訴訟だという。

 とはいえ、原告・被告どちらの立場でも、よほど法律に明るくない限り、本人訴訟というのはかなり大変だ。また示談交渉や裁判を経験した人たちは、「防戦一方となる被告側は、精神的負担も大きい」と、一様に口を揃える。

 弁護士らによると、例えば「被害額1000万円」の係争ならば、被告側は「いきなり1000万円の借金を背負わされたようなもの」と考えるとわかりやすいという。

民事訴訟の被告で弁護士をつけないのは、素人がプロボクサー相手にリングに立ちファイティングポーズをとっているようなものです」(ネット問題に詳しい弁護士)

 ネットトラブルで加害者となり訴えられ、相手方(被害者)に弁護士がついているならば、もはや素人では勝ち目がないとみていいだろう。前出のネット問題に詳しい弁護士が続ける。

「そもそもネットトラブルで訴えられた場合、もう被害者は弁護士に相談し、決定的な証拠を握られていることがほとんどだからです」

 そうした背景もあり訴えられたネットトラブルの加害者の多くは、弁護士をつけて裁判に臨むことになる。前出のユウジさんも例外ではなかった。

ネットでの誹謗中傷者側からみた示談交渉、裁判の動き

 2017年のある日、ユウジさんの自宅に簡易書留が届いた。その郵便物には「発信者情報開示請求照会書」とあり、ユウジさんによるネットの書き込み内容と、これによって人権を侵害されたと訴える被害者(面識のない女性上司)の名前が記載されていた。そしてプロバイダー契約者の住所、氏名を被害者に開示してよいか否かを回答の上、プロバイダーに送付するよう求められる。

「ひとまず弁護士を探して相談しました。弁護士からは、『知らない』と回答しておけばいいと言われたのです」

 市役所主催の30分無料相談で、「あまりインターネット問題に詳しくない」と語る年配の弁護士に相談した際、こう言われたことから、ユウジさんはこれを真に受け、開示を拒否した。だが、これが後々、命取りとなった。相手側の心証をかなり悪くしたからだ。

 発信者情報開示請求照会書のことを忘れかけていた4カ月ほどあとの日、プロバイダーから電話がかかってきた。

「まことに残念ながら、発信者情報開示請求の裁判に敗訴致しました。そのため、ご契約者様のご住所、ご氏名を相手方に開示することになりました」

 やがて、その相手方への開示内容がユウジさん宅にも送られてきた。だが、それでもユウジさんにはまだ危機感はなかった。プロバイダーの契約者は妻にしていたからだ。相談した年配の弁護士からは、刑事訴訟では「(契約者である)妻が書き込んだことを相手方が立証しなければならない」と聞いていたからだ。

 それからユウジさん宅に、弁護士名の内容証明郵便と書留郵便がほぼ同時に届いた。そこには、「損害賠償金として1000万円、弁護士の銀行口座に振り込め」と書かれている。だが宛先はあくまでも妻だ。ユウジさん自身ではない。驚いた妻から、「どういうことなの?」と問い詰められたが、「いたずらだろう」と、その場はやり過ごした。