ロシア、よぎるソ連崩壊の悪夢…原油埋蔵量「枯渇」シナリオが現実味、寿命20年説も

 エネルギー省のソロキン次官も今年1月、「エネルギー政策」という雑誌に投稿した論文のなかで「ロシアの原油可採埋蔵量は約300億トンとされているが、このうち現在のマクロ経済条件下で利益が出るのは36%のみである」としている。ロシアのここ数年の年間生産量は約5.5億トンであることから、ソロキン氏の見解でも「利益が出る部分(36%)のみをカウントすればロシア産原油の『寿命』は20年弱」となる。

 ロシア政府幹部が相次いで「自国産原油の寿命が20年に満たない可能性がある」と語っているわけだが、2020年6月にロシア政府が採択した「2035年までのエネルギー戦略」で「2035年時点の原油生産量は良くて現状維持、悪ければ現在より約12%減少する」と見込んでいる。悲観的な予測の根拠となる要因としては、ロシアの原油生産に関する開発条件が急速に悪化していることが挙げられる。

 ロシアを石油大国の地位に押し上げたのは、西シベリアのチュメニ州を中心とする油田地帯である。巨大油田が集中し、生産コストが低かったが、半世紀以上にわたり大規模な開発が続けられた結果、西シベリア地域の原油生産はすでにピークを過ぎ、減産フェーズに入っている(過去10年で10%減少)。現在の原油生産量を維持するためには東シベリアや北極圏などで新たな油田を開発しなければならないが、2014年のロシアによるクリミア併合に対する欧米の経済制裁が続いている中では技術・資金両面の制約があり、期待通りの開発が進んでいない。

 ロシアの石油産業は同国のGDPの15%、輸出の40%、連邦財政の歳入の45%を占める経済の屋台骨である。ソ連崩壊を招いた大本の原因は、1980年代後半の原油価格の急落だったといわれている。プーチン大統領登場と時を同じくして世界の原油価格は上昇し、ロシアは大国の地位に復活できたが、自国の原油埋蔵量の枯渇という未曽有の事態に直面すれば、再び苦境に立たされてしまうのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省

1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)

1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)

1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)

2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)

2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)

2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職