美術品売上高、世界シェア1%未満…なぜ日本はアート産業“貧国”なのか?

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文化庁のサイトより

 アート(美術品)を事業戦略に取り入れる大手企業が増えている。ポストコロナを見据えた動きだ。

 三菱地所は美術品などを軸にしたアート事業に参入した。寺田倉庫やTSIホールディングス(HD)、東急などと「MAGUS(マグアス)」を設立。広告写真や映像制作のアマナとも業務提携した。MAGUS(東京・品川区)の資本金は資本準備金を含め2億1600万円。社長はアマナでIMA(イマ)プロデューサーだった上坂真人氏。個人でも出資している。上坂氏は1980年早稲田大学卒業後、朝日新聞出版局(現・朝日新聞出版)、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)、マガジンハウス、日経コンデナスト(現・コンデナスト・ジャパン)、アシェット婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)で、営業サイドでメディアビジネスを支えてきた。2011年、アマナに入社。あらゆるメディアを通じ、写真(映像)のある豊かな生活を提案するプロジェクト、IMAを立ち上げた。IMAのプランニング担当執行役員として海外メディアと提携し、現代アートに関する立体的メディアプロジェクトに取り組んできた。19年4月から武蔵野美術大学デザイン情報学科客員教授を兼任している。

 海外では美術品は富裕層が購入するだけのものではない。企業もPRの手段として活用するなど身近な存在だ。MAGUSは鑑賞や投資対象にとどまるアートの新たなビジネスの機会を国内で開拓する。具体的には現代美術家の絵画や写真、彫刻を使ったマーケティングを企業に提案。写真家と協賛し、海外の展覧会などで評価されることで製品の売り上げが伸びた実例があるという。

 アートに関するイベントも開催。投資目的や教養としてアートを学びたい人を対象に学校を開く。世界のアート情報を発信する専門メディアも立ち上げる予定だ。MAGUSのコンソーシアムに参加する寺田倉庫は、本社のある品川区天王洲をアートの一大拠点とする目的で、現代アートの複合施設「TERADA ART COMPLEX」などの事業で存在感を示している。東急にはBunkamuraがある。

 三菱地所は丸の内地区のブランドや集客力をアップするためにアートを活用するほか、有楽町エリアの再構築に向けた先導的なプロジェクトである有楽町マイクロスターズディベロップメントの一環として20年7月、アートギャラリー「CADAN有楽町」を有楽町ビル1階に開業した。一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパンや一般財団法人日本現代美術商協会と協力して、最先端の現代アートに触れられるようにする試みだ。近年、アートへの注目が高まり、アート事業に参入する企業が増加傾向にあるが、MAGUSは、どのようなポジションを獲得していくのだろうか。

三井不動産はアートホテルに参入

 アートホテル「BnA_WALL」(ビーエヌエー・ウォール)が4月、東京メトロ小伝馬町駅近くに開業した。エントランスから客室までアーティストの作品やデザインを全身で感じさせるホテルだ。築40年のオフィスビルを三井不動産が16年に取得・改修し、5階建てのアートホテルをオープンした。

 アートホテル運営で実績のあるBnA(東京・中央区)と組んだ。東京・日本橋小伝馬町は高円寺、秋葉原、京都の河原町に続き、4拠点目となる。コンセプトは「変化を楽しむホテル」。エントランスの巨大壁画は若手アーティストに2~3カ月に一度、描いてもらって替える。1階のラウンジから壁画の制作現場を見ることができる。単に作品を見るだけでなく、アートが生まれ、ホテルが変化していく過程を実体験できる仕組みになっている。

 全客室がいわばアート作品というわけだ。26部屋には部屋番号のほか、作家や作品名を明記。床や壁、天井までアーティストの個性あふれるデザインとなっている。1泊平均2万~2万5000円。宿泊費の一部を、部屋を制作したアーティストに還元するようになっている。