京セラの賭け、1.3兆円投資の勝算…同社のセラミック技術の重要度が世界で高まる

 その背景には、京セラ経営陣の確固とした勝算があるだろう。2022年から2030年の間、京セラは世界のロジック半導体需要は約11%、メモリ半導体は約5%増加していくと予想している(いずれも年率)。それに加えて、台湾から米国、日本、ドイツなどへTSMCは生産拠点を分散している。それに伴い、ロジックを中心に最先端の半導体の生産設備、製造装置、高純度の半導体関連部材の需要も増える。そうした変化に対応するために国内外において京セラはセラミックパッケージや製造装置向けのファインセラミック部品の生産能力を強化してきた。その結果として業績の拡大が実現された。設備投資などの積み増しによって、京セラはセラミック製造技術という強みにさらなる磨きをかけようとしている。それは半導体製造装置部品市場などでのシェア拡大に寄与するだろう。

 それに加えて、今後の世界経済では、6Gなどの次世代の高速通信技術の開発と実用化も目指される。自動車のネットとの接続、自動運転、シェアリング、電動化(CASE)などに必要な技術開発も加速し、先進運転支援システム(ADAS、エーダス)向けのセラミック部品需要も増えるだろう。ファウンドリが製造した半導体をケースなどに封止する(パッケージ)の分野ではより微細な配線を施したり、チップを積み重ねたりしてより高い性能を実現することが目指されている。いずれも京セラのセラミックなどの製造技術への需要を押し上げる要素と考えられる。成長期待の高い分野での投資積み増しは、京セラにとって、株主などの利害関係者とより強固な関係を築くために欠かせない。

注目される「選択と集中」

 今後の注目点のひとつは、京セラ経営陣が選択と集中をどのように進め、収益性を向上させるかだ。全体として、現在、京セラの事業ポートフォリオ全体で収益率は上昇しづらくなっている。3つのセグメントから構成される京セラの事業ポートフォリオを見ると、コアコンポーネント分野の利益率は15.5%に上昇した。

 一方、電子部品分野では15.6%に低下、ソリューション事業は4.9%に低下した(いずれも2023年上期)。2022年3月期の第1四半期に9.7%だった京セラ全体の利益率は2023年3月期の上期終了時点で4.9%と不安定に推移している。半導体関連部材事業の収益力は向上している。一方、ソリューション事業の収益率は伸び悩んでいる。それは、京セラがさらなる成長を目指す課題といえる。京セラは、収益性の低下しているソリューション事業の見直しを加速し、より高い成長が期待できるコアコンポーネント分野に多くの経営資源を再配分すべきと考えられる。それは必要な取り組みの一部ではある。

 同社に期待したいのは、事業ポートフォリオ全体に「新しいセラミック製造技術の実装」という横串を通すことだ。セラミックの製造技術は、最先端の半導体分野での需要を創出している。それは電子部品事業の成長にも追い風になってきたと考えられる。よりサイズの大きな電動工具などの製品を扱うソリューション事業においても、セラミックの製造技術や、それによって得られた知見は活用できるだろう。このようにセラミックの製造技術を根底に、どのように事業ポートフォリオ全体で成長力と収益率の向上を目指すことができるかは、今後の事業戦略のポイントになるはずだ。反対に、それが難しい事業は売却されるなどする可能性は高まるだろう。微細さ、純度の高さの点において、セラミック製造技術を向上し続けることが京セラにとっての重要な戦略であるといってよい。

 今後、半導体分野での米中対立、米国などでの利上げによる世界的な景気後退リスクの上昇など、京セラの事業環境はより不安定化するだろう。その状況下、経営陣は設備投資などの積み増しによってセラミックという素材の持つ機能をさらに引き出し、世界的セラミックメーカーとしての地位をより強固にしようとしている。今回の設備投資積み増しには、そうした覚悟が込められている。

(文=真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授)