EUはEV推進を中止→再びトヨタら日本勢が勝つ…EVは環境に悪いとバレ始めた

大原 水素発電には可能性があるし、水素エンジン自動車はトヨタが開発を進めている。それから、人工光合成はかなりいいところに来ているのではないかと見ている。植物には光合成の仕組みがあるが、人工光合成は太陽光エネルギーを有機物に変換する。トヨタ出資の豊田中央研究所の場合、その有機物は「ギ酸」だが、ギ酸は簡単にいうと、液体でガソリンと同じように使えるものだ。しかも、ギ酸から水素を作れる。これが大きなポイントだ。だから、トヨタが水素エンジンに注力しているのは、たぶん人工光合成という技術があるからではないか。だから、水素のほうが太陽光発電よりはるかに可能性が高い。

――トヨタが開発中の全固体電池が完成すればEVの流れが変わるか。

大原 トヨタは27~28年に全固体電池を搭載した次世代EVを発売すると言っている。これは、テスラが言っているならまったく信じないが、トヨタはめったなことを言わないので、よほど自信があるのだろう。5年先だが、そこから本当のEV普及が始まるかもしれない。それでもEVが良いというわけではなく、EVにはいろいろなデメリットがあるので、本当に主流になるかどうかはわからない。ただ、市場からまったくなくなることはないだろう。少なくとも今のスペックのリチウムイオン電池ではもう続かない。あまりにも不便すぎる。

――全固体電池はどの程度まで開発が進んでいるのか。

大原 全固体電池は簡単にいえば、液体を固体にしただけだが、いろいろな研究機関のデータ見ても大した性能ではない。ただ、燃えにくくて安全性が高くなるのは事実。それから、例えばスマホ用の小さい全固体電池などはすでに実用化されているが、電池は小さいものと大きいものでは、大きく違ってくる。リチウムイオン電池だってスマホで使っている限りはまったく問題ない。でも、EVになるとさまざまな問題が出てくる。だから全固体電池も今はその段階ではないか。最近のデータを見る限り、全固体電池は本当にそんなにすごいことできるのかっていうのが正直な感想だ。原理的にそんなにスペックが上がるはずがないと思うのだが、リチウムイオン電池よりはマシなんじゃないかという話だ。

――全固体電池になってもEVには疑問符が残る?

大原 トヨタのハイスペックの全固体電池でもHVには勝てない。HVは、ガソリンで作ったエネルギーを電池で効率よく回収できる。だから原理的にEVよりも環境に良いはずだ。一般の発電でも送電線でロスが出て効率が悪い。ところが、HVのエンジンは、エネルギーをほとんどすべて回収できる。はっきりした統計数値は出てないが、普通に考えるとそうなる。

――トヨタは2002年12月に燃料電池車(FCV)のリース販売を始め、小泉純一郎首相(当時)がPRに一役買ったこともあったが、FCVはまったく普及しなかった。

大原 FCVと水素エンジンはまったく別物。水素で電気を作って走るので、技術的にはFCVはEVと同じで、やはりEVの欠点を持っている。それに対して水素エンジンは、簡単に言うと、ガソリンが水素になっただけで、技術的にはガソリン車だ。だから、ちょっと直せば今のガソリンエンジンが使えるし、ガソリン車のインフラを基本的に使える。そこが決定的に違うところだ。

EV推進自体がEUの迷走

――自動車の脱炭素は国の環境政策で決まる。

大原 政策のことを言えば、EV推進自体がEUの迷走だ。ディーゼル車が大失敗して、それを帳消しにすべくEV推進したわけで、そこにポリシーなんて見えない。日本車メーカーを潰したいだけだ。ところが、日本のメーカーを潰したかったはずが、中国が追い越し、今はBYDが世界最大のEVメーカーになった。テスラは2位だ。トップ10に中国のメーカーが6社も入っている。中国製のEVがEU市場に入ってくることをEUは深刻に受け止めており、おそらく、EV推進をやめるのではないか。中国が自国の市場をEV化してきたのは、中国メーカーのEVを世界に売るためだ。EUもアメリカもそれを警戒している。EVは簡単に中国でも作ることができる。重要な部品は電池だけで、モジュールを組み立てるだけだ。それに対してハイブリッドとかガソリン車では、中国は勝てない。だから、EUもそちらで勝負したほうがいいので、なおさらEV推進には歯止めがかかる。そうすると中長期的には日本が勝つので、それはそれで面白くないのだろうが。

 EUや中国でなぜEVが今まで売れていたかといえば、手厚い補助金があったからだ。EUも中国も補助金が削減されたり、なくなったりしているので、だんだん売れなくなってきた。これも、EVイリュージョンということだ。

(構成=横山渉/ジャーナリスト、協力=大原浩/国際投資アナリスト)