健康寿命を延ばす「無理しない思考法」

AI診断が当たり前になる時代に、本当に良い医者を見分けるたった一つのコツ

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AIが進歩すれば、AIに症状を伝えるだけで病気の診断をしてくれるようになるでしょう。その精度はより正確になっていき、医師の診断よりもAIのほうが頼りになる、そんな時代もやってくるはずです。
もちろん、現段階では正確な診断を行うにはまだまだいろいろな問題があります。ですが近い将来、実現するのは間違いありません。

人型ロボットが病気を診断し、自販機のような物から薬が出てくる。SFの世界で、そんなシーンを目にした人も多いのではないでしょうか。
実際の医療の未来がどうなるのか。いろいろ予測されていますが、さしあたっては、AIが診断のアシスタントになるでしょう。先にも書いたように、いずれ医師よりも頼りになるようになり、医師は今後不必要になってしまうのでは? そんな意見も聞かれたりします。

しかし、患者さんは診断や治療だけを求めて、病院に来ているわけではないようです。患者さんと医師が、人として向き合う。この人間対人間という部分は、いくらAIが進歩しても代替することはできません。そのため、医師という職業はまだ残っていくだろうと言われています。

なぜ医師は患者の話を聞かないか

その一方で、患者さんとコミュニケーションを取らない、患者の話をろくに聞かない、そんな診療の仕方も増えているようです。そうした診療の仕方が増えた背景について、私なりに考えてみます。

1)診察室のパソコンが会話を減らした

私の診療所に診察に来た患者さんから「病院の先生は忙しくしていて、パソコンの画面ばかり見て、話を聞いてくれないんですよ」という愚痴を聞いたことがあります。

この患者さんの言うように、医師が話を聞かない、患者の顔を見ないのは、「パソコンに入力する時間を取られている」ことが原因の一つだと思っています。

パソコンを使うようになり、カルテの管理が便利になった一方で、患者さんのほうを向いて話をすることが難しくなってしまったのでしょう。しかしそれで、パソコンの画面ばかりを見て、患者さん見ずその声に耳を傾けなくなってしまっては、本末転倒もいいところです。

大昔の話ですが、大学病院の教授の外来診療では、教授の会話をカルテに記入するために、シュライベンと呼ばれる若い医師がそばにいました。だから教授は患者さんと話をするだけで、カルテ記入もしなかったのです。
アナログ世界の極みのような状況で非効率に感じますが、患者からすればそのほうがずっとよかったのかもしれません。そばにいる若手の医者は一字一句漏らさないようにカルテに記入していましたから大変だったと思いますが、教授は診療に集中でき、余裕が持てたはずです。

電子カルテをパソコンで管理するようになって、シュライベンのような人員は必要なくなりました。ですがその一方で、データ入力・管理の負担が膨大に増えてしまいました。結果として、診療の際に患者さんの顔を見向きもしない医師を、大量に生んでしまったのです。
これは、合理化によって生まれたしまった弊害の典型のように思います。
なお、最近ではこの弊害をなくすために、シュライバーと呼ばれるカルテ記入をする医療秘書をつけるようにしているところもあるようです。

いずれにしても、初めに言いましたように、患者さんは単に病気の診断と治療を受けに来ているわけではないのです。患者さんは症状を抱えると同時に、不安も抱えています。その不安に寄り添うことが、AI診断が当たり前になっていく時代に、医師に求められている役割だと感じています。

2)何もしない医師が出てきた

いまの医師の方向性として、やはり専門性が強くなっています。それは、大学病院で顕著で、そこで医師として生き残るには、専門性がどうしても必要になるからです。

ですが、専門性が高くなると、患者さんが訴える症状の一部しか診なくなります。からだ全体として俯瞰しなくなるのです。例えば、心臓だけをとってみても、心臓そのものは診ずに不整脈だけを診る、というようにさらに専門化・細分化は進んでいます。

そうなると、心臓に病気があったとしても、さらに胃潰瘍があるとなれば、自分のところでは診ずに、胃潰瘍に関してはすぐに消化器内科の医師に診療を頼むことになります。分業化という意味ではいいのですが、自分の専門以外はまったく興味がない、診療しないということになってしまうのです。

開業医でも、その延長線上のようなことが起きています。
一般内科医であっても血圧を測らない医師もいます。血圧は自動血圧計で測ればいいから、自分の領分ではないというわけです。
息苦しいと訴えても、聴診もしないのです。これは、レントゲンを撮ったほうが早いと考えているためです。しかし患者さんにとってみれば、医師に直接診察をしてもらい、安心したいという思いはあるものでしょう。
また、聴診では診断できないから、すぐに心臓の超音波をやればいいと言う専門医もいます。 
このように、いろいろな医療機器が医師と患者さんの間に入ることで、医師と患者のコミュニケーションがますます減ってしまっています。
自分の専門以外の病気は興味がないから、患者さんのいろいろな訴えを聞かなくなってしまうこともあるわけです。

3)医師の性格や医師になってからの年数

医師が患者さんの話を聞かない理由を2つ挙げましたが、それらよりももっとも重要なのは、やはり医師個人の性格の問題ではないかと思います。

患者さんの言葉に耳を傾けるのは、医師の基本中の基本です。ですが、医師になり自信ができはじめる10年くらい経ったときが、最も危険な時期かもしれません。というのも、なんでも診断できるような気がしてくるからです。
そして30年くらい医師を続けてくると、ようやく医学の本当の難しさがわかってきて、むしろ謙虚になってくるものです。
だから、話を聞いてくれない若手の医師だとすれば、まずはベテランの医師に受診することも選択のひとつでしょう。

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プロフィール

米山公啓
米山公啓

1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ大学医学部卒業、医学博士。専門は脳神経内科。超音波を使った脳血流量の測定や、血圧変動からみた自律神経機能の評価などを研究。老人医療・認知症問題にも取り組む。聖マリアンナ医科大学第2内科助教授を1998年2月に退職後、執筆開始。現在も週に4日、東京都あきる野市にある米山医院で診療を続けているものの、年間10冊以上のペースで医療エッセイ、医学ミステリー、医学実用書、時代小説などを書き続け、現在までに300冊以上を上梓している。最新刊は『脳が老化した人に見えている世界』(アスコム)。
主なテレビ出演は「クローズアップ現代」「世界で一番受けたい授業」など。
世界中の大型客船に乗って、クルーズの取材を20年以上続けている。
NPO日本サプリメント評議会代表理事。推理作家協会会員。

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