それでも、実際にFigmaを使い始めたデザイナーたちは、ブラウザ上で共同作業する楽しさと圧倒的な効率性に気づき始めた 。URL一つでデザインを共有できる手軽さは、チーム内のコラボレーションを促進し、Figmaは世界中の企業やコミュニティに急速に広がっていったのだ。
Figmaの優れた点は、単に優れたデザインツールを提供したことだけに留まらない。彼らは製品開発のワークフロー全体、すなわちアイデア創出から、デザイン、ビルド、そして製品のリリースまでを一気通貫でサポートするプラットフォームまで進化したことにある。
下記のように製品のライフサイクル全てを網羅するラインナップが揃っている。
Ideate & Align:「FigJam」と「Figma Slides」。製品開発の最も初期段階であるブレインストーミングやチーム内の合意形成を担う。Miroのような共同作業ツールと競合する領域だ。
Visualize:「Figma Design」と「Figma Draw」。Figmaの中核事業。具体的なデザインやプロトタイプ、アイコンなどを制作できる。
Build:「Dev Mode」。デザインをコードに変換することができ、デザイナーとエンジニアの垣根をなくし作業を効率化する。
Ship:「Figma Sites」と「Figma Buzz」。Figma Sitesはウェブサイト制作(WebflowやFramerと競合)、Figma Buzzはマーケティング用のデザイン素材(Canvaと競合)作成ができる。
プラットフォームの真の価値は、個々の製品の機能性だけでなく、それらがシームレスに連携することにある。例えば、FigJamで作成した付箋はFigma Slidesのプレゼンテーションに流動的に変換されるなど、制作したコンテンツは製品間を自由に行き来できる。複数のツールを使い分ける際の摩擦がなくなり、Figmaが唯一の「信頼できる情報源」としての地位を確立する。この統合こそが、Figmaのプラットフォームとしての堀(Moat)の基盤をなしている。
実際に顧客の76%は2つ以上の製品を使用しており、クロスセル戦略が成功していることがわかる。結果として、大口の既存顧客が生み出す売上高の拡大率を意味するNRR(Net Dollar Retention Rate)は132%と驚異的な水準にある。要するに、前年と比べてFigmaに支払う費用を3割も増やしているのだ。
Figmaのもう一つの強みは、そのプロダクト主導の成長(Product-Led Growth、 PLG)モデルと、それを支える熱狂的なユーザーコミュニティにある。Figmaの月間アクティブユーザー(MAU)は1300万人を超えるが、そのうち3分の2はデザイナー以外の職種(プロダクトマネージャー、開発者、マーケターなど)だ。
デザイナーがFigmaを使い始めると、共同作業のために開発者やPMをファイルに招待し、自然と組織内で利用が広がっていく。このバイラルな性質こそが、Figmaの効率的な顧客獲得の原動力となっている。
個人のデザイナーが無料の「Starter」プランを使い始め、やがてチームが「Professional」プランにアップグレードし、最終的には組織全体が「Enterprise」プランで標準化する理想的な流れができているわけだ。実際、新規のエンタープライズ顧客の約70%は、元々は小規模チーム向けのプロフェッショナルプランのユーザーだった。