「京都も金沢も有名観光地はもう行った。次はまだ行ったことのない地方へ」という動機をもった客層が狙い目になるということか。
「円安の影響で『なんでも安いコスパのいい国』として日本を見ている訪日客が増えているように感じられる。そういう客層ではなく、『まだ見ぬ日本を感じたい』という客層をターゲットとして、いわば『通好み』の観光地になるという戦略をとるのも一策だろう。湯治場の雰囲気を残す温泉や大都市にはない素朴な生活のニオイを感じられる地域もまだある。いたずらに数を追わず、過ごした時間が思い出に残る印象深い出来事になるような経験価値の高い観光をめざすべき」(東教授)
東北に限ったことではないが、宿泊業の将来を考えるうえで、人手不足と事業承継問題は深刻な問題になっている。「秋田では、延べ宿泊者の36.2%、岩手では25.2%が旅館に泊まっている。全国でみると旅館に泊まるのは12.7%なので宿泊需要の受け皿として旅館は重要な役割をもっている。ところが……」と教授は言う。
「個人経営・家族従業の旅館も多く、経営者の高齢化も進んでいる。身内に後継者がいない宿は廃業の危機にある。事業承継問題を解決しなければ、温泉地自体の衰退につながりかねない。秋田では、廃業する温泉旅館を組合が買い取った例もある。岩手では地域愛に燃える個人起業家が廃業した温泉宿を買い取ってリノベーションを進めている例もある。そうした人たちが何とかつないでいるのが実情。今のうちに、地域として事業承継・人材育成の仕組みづくりを真剣に考える必要がある」(東教授)
確かに、事業承継や人材育成の問題を解決しなければ、10年後には中小規模の旅館が減り、温泉情緒もまた失われてしまうのかもしれない。
日本の観光は史上最高水準に達しようとするインバウンドの増加に沸いているように見える。しかし、全国あまねくその恩恵を受けられるわけではない。反対に京都のようにオーバーツーリズムによって地域社会が不利益を被り住民が不快感や不安・不満をあらわにしている地域もある。
最後に東教授は、「訪れる人が地域をリスペクトするからこそ、受け入れる人がウェルカムと言ってくれる。そういう関係性が失われつつある。それこそがオーバーツーリズムという問題の質的な側面だ。いたずらに数を追うのではなく、地域の良さを理解し、共感してくれる旅人にこそ大切な地域の恵みや持ち味を分かち合いたい―そういう思いをもって観光地域づくりに取り組んでほしい」と語る。
「どんな観光客に来てもらいたいのか」「どんな形で地域の良さを味わってもらうのか」、教授のいう「通好みの観光地」をめざすためには、ターゲットとなる観光客のニーズを理解し、地域を深堀りして魅力化する取り組みが不可欠だろう。そうした戦略こそが東北観光の未来を左右する。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=東徹/立教大学観光学部教授)