電力事業としては後発となるテスラだが、神崎氏はその優位性を次のように指摘する。
「テスラは、すでに多くの家庭にパワーウォールという蓄電システムを導入しているという、いわゆる“下地”があることが最大の強みである。ゼロから蓄電池の導入を促すのは大変なコストと時間がかかるが、テスラはすでにある基盤を活かせる」
さらに、電力小売事業とEV事業は、消費者の利便性向上という点でも密接に結びついている。停電リスクへの備えや、EVの安定的な充電といったメリットは、テスラ製品のパッケージとしての価値を高めている。
テスラは今後、主力事業をEVから電力事業に変えていくのだろうか。神崎氏は「EVと電力事業は一体として進めていくのが、非常に効率が良い」と述べ、二本柱として両事業を展開する合理性を強調する。
「どれだけ利益が出ているか、加入者数がどれだけいるかなど、公的な情報は限られているので予測は難しい。しかし、家庭への浸透度の高さや、既存ユーザーの収益化可能性の大きさから、電力事業も一気に成長する可能性は高い」
テスラの戦略は、単なる車の販売から、EV、蓄電池、太陽光発電、そして電力小売りを統合した「エネルギーのプラットフォーム」を構築することへとシフトしている。この統合型アプローチは、従来の自動車メーカーや電力会社にはない、テスラ独自の競争優位性を生み出している。
テスラの電力小売り事業参入は、EV販売減少という課題への対応であると同時に、エネルギー領域での長期的なプラットフォーム戦略の一環である。今後、EVと電力事業のシナジーを活かした新たな収益モデルが、テスラの競争力を再び押し上げる可能性が高いといえる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=神崎洋治/ITジャーナリスト)