
●この記事のポイント
・生成AIと脱炭素を背景に世界で進む「原発回帰」。だが2030年代にウラン供給制約が顕在化し、原発の低コスト神話は崩れつつある。電力は新たな経営リスクとなる。
・ウラン需要倍増と鉱山寿命の壁が、原発の経済性を揺さぶる。商社、重電、データセンターなど日本企業は、電力確保の巧拙で競争力が二極化する局面へ。
・原発と再エネは対立か共生か。資源制約が進む中、電源の多様化こそが企業防衛の鍵となる。電力は「選ぶ時代」から「奪い合う時代」に突入した。
カーボンニュートラルと生成AIブーム。この二つの潮流が交差する地点で、世界は再び「原子力」という選択肢へと舵を切り始めている。かつて安全神話の崩壊とともに停滞した原子力発電は、いまや「脱炭素」と「巨大電力需要」を同時に満たす現実解として、主要国のエネルギー戦略の中核に返り咲いた。
だが、この“原発ルネサンス”の裏側で、ビジネス界が十分に織り込めていない構造的リスクが静かに進行している。それが、ウラン資源制約という新たなボトルネックだ。
●目次
米国のエネルギー市場では、いま異例ともいえる動きが相次いでいる。グーグル、マイクロソフト、アマゾンといったビッグテックが、原子力発電事業者と長期売電契約(PPA)を結び、小型モジュール炉(SMR)の新設や休止原発の再稼働を後押ししているのだ。
背景にあるのは、生成AIの爆発的普及がもたらしたデータセンター(DC)の電力飢餓である。AIモデルの学習・推論を24時間365日稼働させるDCにとって、天候に左右される再生可能エネルギーだけでは安定運用が難しい。CO2を排出せず、出力が安定したベースロード電源として、原発が再評価されるのは必然ともいえる。
この潮流は日本も例外ではない。2014年度に稼働ゼロとなった日本の原発は、2024年度には発電比率9.4%まで回復。政府はエネルギー基本計画で、2030年度に20~22%への引き上げを掲げている。
一見すると、日本は「安価でクリーンな電力」を再び手に入れつつあるように映る。
しかし、この楽観的なシナリオに疑問符を投げかけるデータがある。世界原子力協会(WNA)によれば、2040年までに原子炉用ウラン需要は現在の約2倍、年15万トン規模に拡大する見通しだ。
問題は供給だ。現在のウラン市場は、すでに供給余力が乏しく、冷戦期の軍縮で生じた余剰在庫の放出によって、かろうじて均衡を保っている状態にある。さらに深刻なのは、主要ウラン鉱山の多くが2030年代に寿命を迎えるという事実だ。
新規鉱山の開発には、探査から操業開始まで10~15年を要する。すなわち、需要が急増する2030年代前半に、供給が追いつかない「空白期間」が生じる可能性が高い。
「原発は『建設費は高いが燃料費は安い』という前提で語られてきました。しかし、ウラン価格の構造的上昇と、濃縮・輸送・安全対応コストを含めると、その前提自体が崩れつつあります」(エネルギー政策の専門家である佐伯俊也氏)
燃料費の上昇は、原発のLCOE(均等化発電原価)を押し上げ、長期的な電力価格の不安定化を招きかねない。
この原発回帰とウラン制約は、日本企業の競争環境に深い影響を及ぼす。