同社は統合型人事システムとしてNo.1を目指すとしており、2年後のARR(年間経常収益)200億円達成が大きなマイルストーンになる。では、具体的にどんな施策を打つのか。冨永CEOは戦略として「プロダクト」「エコシステム」「組織強化」の3つを挙げた。
具体的には、プロダクトはAI時代に合わせた統合対応の進化、エコシステムは販売パートナーへの注力やユーザーコミュニティの発足、組織強化はカスタマーサクセスの強化と開発体制の強化だという。SaaSは毎月継続的に使ってもらってこそ利用価値がわかるものだが、そのためにもユーザーコミュニティが必要だということだ。そして、開発強化のために、AI対応のエンジニアを30%増員するとしている。
AIというと昨今は「生成AI」が大きな話題だが、「AIエージェント」も花開こうとしている。これは、ユーザーからの継続的な指示なしに、目標達成に必要な行動を自ら判断・実行する自律性が特長だ。そして、時を同じくしてMCP (Model Context Protocol)というテクノロジーも出てきている。生成AIと外部のデータソースやツールを連携させるためのオープンな標準規格で、AIエージェントが多様な外部ツールを簡単かつ効率的に利用できるようにするものだ。
システムがAI化されても、そもそもデータベースが正しくなければ何の意味もないわけだが、同社の人事システムは正確さが担保されているため、3つのAI技術が統合されたときには革新的な変化が生まれると期待される。冨永CEOは「ジンジャーはその世界に向けて準備万端であり、当社はAI-Readyな人事データベース」と強調する。
AIによって人事関連の何がどう変わるのか、もう少し具体的に紹介する。
採用が決定した瞬間にAIが起動すれば、本人のスマホには必要な情報が届き、簡単に雇用契約が締結できる。入力された情報は人事データベースに登録され、社会保険の手続きなども準備される。入社後の備品やPCなども手配されるし、関係部署に通達される。入社後もAIが従業員を継続的にサポートし、eラーニングの受講も適切なタイミングで勧める。
経営側には人員の過不足をリアルタイムで可視化され、勘と経験に頼っていた人員配置がデータに基づいたものへと修正される。後任候補についてもAIが全従業員のスキルや実績を基に最適な候補者を複数ピックアップする。客観的で公平な人員配置が実現する――。
人事向けポータルサイト「日本の人事部」発表の調査によれば、すでに約7割の人事担当者が生成AIを活用しているという。しかし、それは議事録や会議内容の要約といったレベルで、主に業務の効率化を図っているに過ぎない。「ジンジャー」が上に挙げたようなAI活用の未来を実現できるかどうか、注目していきたい。
(文=横山渉/フリージャーナリスト)