日本フッソ工業は、プラントの貯蔵タンクや配管の内壁コーティングにMOFを導入。金属表面の酸化・腐食を抑制し、耐食性を数倍に高めることに成功した。
フッ素樹脂コーティングでは対応できない高温・高圧環境でも安定性を保つため、化学プラントのみならず、半導体製造装置にも応用が拡大。
ナノレベルの構造制御が求められる半導体分野では、MOFが次世代プロセスの要になる可能性もある。
「世界の産業用エネルギーの15~20%は、分離・精製プロセスに費やされているといわれます。空気から酸素や窒素を分ける、排気からCO2を除去する――これらは高温・高圧を必要とするため、膨大なエネルギーを消費します。MOFはこうした工程を常温付近で実現できます。つまり、工業プロセスそのものの“省エネ構造”を実現する素材で、分子レベルで設計された空孔が、エネルギー効率を劇的に高めることが期待されるのです」(物質科学研究の専門家)
MOFは学術だけでなく、スタートアップエコシステムでも注目を集めている。京都発のAtomisは、水素やメタンを安全に貯蔵できるMOFガス容器を開発。米H-MOFは医薬品や香料の分子カプセル化を進める。欧州ではMOFappsがデータセンターの冷却システムに応用中だ。
さらに、AIによる材料設計の自動化も始まっている。分子シミュレーションと生成AIを組み合わせ、用途ごとに最適なMOF構造を“自動生成”する取り組みが進行中だ。「素材をつくるAI」が、次の産業革命の火種となる。
1980年代、日本は炭素繊維やセラミックスで世界を席巻した“素材立国”だった。だが近年、量産・商用化スピードで欧中に遅れを取った。しかし、MOFはその雪辱の機会となる可能性がある。
北川教授のノーベル賞は、単なる学術的栄誉ではない。学界・産業界・スタートアップが結びつくことで、日本は再び「分子で世界を設計する国」として復権できるかもしれない。
MOFはエネルギー、化学、半導体、インフラなど、多様な産業を横断する“プラットフォーム素材”である。CO2回収からデバイス材料まで、社会課題の最前線を支えるテクノロジーが、いま静かに日本から世界へ広がっている。
「分子を設計して、社会を設計する」。北川教授が示したこのビジョンは、AI時代の素材革新とGXを結ぶ日本発の希望のシナリオでもある。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)