ギャンブルから競技カルチャーへ…サミー、m事業で挑む“ポーカー革命”

 店舗では毎日何かしらのトーナメントが開かれており、初心者から上級者までが同じテーブルで腕を磨く。知らない人同士で戦うことで、自然と会話が生まれ、コミュニティが形成される点も魅力の一つだ。

 伊藤氏は「ポーカーは人と人をつなぐ“対話の場”でもある」と強調する。リアルな対戦で得られる一体感、駆け引き、偶然の出会い――それらが若者たちを惹きつけている。

“頭脳のスポーツ”としての成長性と、世界大会への憧れ

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 海外では、ポーカーはすでに「マインドスポーツ」として確立している。米ラスベガスで開催される「WSOP(ワールドシリーズ・オブ・ポーカー)」では、優勝賞金が数億円に達することもある。日本からも多くのプレイヤーが参加しており、アジア大会でも日本勢の躍進が目立つ。

 一方で、国内ではあくまで合法的な「競技イベント」として発展を続けている。大会の賞金はスポンサー企業からの協賛金でまかなわれ、Eスポーツやゴルフと同様の仕組みで運営されている。

「スポンサーからの協賛金で賞金を提供する形にしています。警察に事前に相談し、適法に開催しています。クリーンな運営を徹底していることが、参加者の安心感にもつながっています」

 サミーが仕掛けるのは、単なる娯楽の再定義ではない。「囲碁・将棋・麻雀」に続く新たな知的競技として、ポーカーを日本のカルチャーの一部にすることを目指している。

店舗×アプリ×イベント、三位一体の“体験設計”

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 サミーのm事業の特徴は、リアル店舗とデジタルの両輪で展開している点にある。店舗ではトーナメント体験や初心者講習を通じてリアルなコミュニティを形成し、アプリ「m HOLD’EM」では日常的にプレイできる環境を提供する。

 アプリ開発では、グループ会社であるセガのノウハウを活用し、遊技機メーカーとしての「演出力」も融合させている。

「将棋も実際に指す場は少ないですが、アプリで遊ぶ人は多い。それと同じように、まず“触れてもらう”ことが大事。アプリがあることで、忙しい人でもポーカーに触れ続けられる環境ができます」

 アプリでスキルを磨き、店舗で実戦に挑み、イベントで成果を発揮する――。この「三位一体」の体験設計が、ポーカー人口の裾野を広げている。

周辺ビジネスとパートナー連携、広がる“ポーカ―経済圏”

 ポーカービジネスの裾野は想像以上に広い。テーブルやチップ、トランプといった周辺グッズに加え、プレイヤーが着るアパレル、SNS配信、教育コンテンツなど、多様な分野で新たな需要が生まれている。

 サミーもイベント運営会社と連携し、トーナメント協賛や会場提供などを通じて業界の拡大を後押ししている。今後はフランチャイズ展開も視野に入れているという。

「店舗のフランチャイズ化はもちろん、教育コンテンツやアプリ開発など、他社と連携して業界全体を盛り上げていきたい。すべてを自社で独占するよりも、共創で市場を広げたいと考えています」

 ポーカーを中心に形成されるこの“経済圏”には、広告、イベント、グッズ、教育、観光など、多様な業界が関わり得る。伊藤氏は「協賛企業が増えれば、賞金規模も拡大し、競技人口はさらに伸びる」と見ている。

日本のエンタメ産業が向かう次の地平

 ポーカー事業の根底にあるのは、サミーのDNA――「遊びを、文化に。」という理念だ。パチスロで培った「遊技体験の設計力」をベースに、m事業は“知的な楽しさ”へと領域を拡張している。

 国内市場はまだ黎明期だが、囲碁・将棋・麻雀に続く“第4のマインドスポーツ”としてのポテンシャルは十分。

 また、カジノ解禁を見据えたIR構想や観光政策とも親和性が高く、自治体やスポンサーとの連携次第で、国際大会誘致などの展開も見込まれる。

「ポーカーは単なるゲームではなく、人と人をつなぐ“社交の場”です。若い世代がこの文化を楽しみ、育てていく。その中で日本らしいポーカー文化を築いていきたい」

 ギャンブルの先にある、知的な競技文化――。サミーの挑戦は、遊技産業からエンタメ産業への大転換を象徴している。その中心にある「m」という一文字には、「Mind(知恵)」と「Meet(出会い)」の二重の意味が込められている。若者たちのテーブルから、新しいカルチャーが生まれつつある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)