開催中のサッカーワールドカップ(W杯)北中米大会は、主催する国際サッカー連盟(FIFA)のビジネス戦略の拡大路線を象徴する大会となっている。出場国・地域数が前回大会の32から48へと増枠させたことに伴い、試合数も64から104に大幅増。合わせてインターネット上での配信事業者の参入もあって、放映権収入は過去最高額に達する見通しだ。
一方で、入場チケットの価格は、需要に応じて変動する「ダイナミックプライジング」が導入されて高騰。FIFAが突き進むビジネスの最大化路線が莫大な収益をもたらす一方、露骨な利益追求の姿勢への批判も高まる。
スポーツビジネスへの拡大路線を突き進むFIFAの姿勢が、今大会ではサッカーの試合形式や観戦スタイルにも変化をもたらす。
象徴的なのが、試合の前半、後半のそれぞれ22分ごろに一時中断し、選手が給水などを行う「飲水タイム(正式名称ハイドレーションブレーク)」の導入だ。
FIFAが2025年12月に選手のコンディション確保を目的に導入を決めたが、この間に中継画面にはCMを流すことが可能になった。前後半による試合形式で行われるサッカーが、実質的には、アメリカンフットボールやバスケットボールのような「クオーター制」に変わった背景に、莫大(ばくだい)な放映権料を得るFIFAによる放送事業者への配慮がささやかれる。
また、世界一を決める決勝では、米メリカンフットボールNFLの年間王者を決めるスーパーボウルと同様に、豪華なハーフタイムショーも実施予定だ。ハーフタイムのショーは、サッカーにそぐわないという声も上がる。
主催するFIFAが批判の声に真摯に耳を傾けることがないのは、ジャンニ・インファンティノ会長が本格的に舵を切った大会の肥大化に伴う収益の拡大路線が功を奏しているからだろう。
本大会の出場枠を広げ、今大会の出場チームは48。前回大会の32から1.5倍に膨らんだ。日本が「ドーハの悲劇」によってあと一歩で出場を逃した1994年の米国大会の出場チームは24。同じ米国を舞台にした大会だが、出場チーム数は28年で2倍に膨らんだ。
これに伴い、試合数も前回大会の64から104へ大幅に増えた。恩恵がもたらされたのは、FIFAが手にする放映権料だ。
日本経済新聞の記事によれば、FIFAが2023~26年に手にする放映権料は40億ドル(約6400億円)に達する見通し。前回のカタール大会が開催された22年までの4年間の34億ドルから大きく伸びることになる。配信事業者も参入したことで大会中継権の争奪戦は激しさを増しており、日本国内でも、英動画配信DAZNが全試合の放映権を獲得し、NHKと日本テレビ、フジテレビの地上波中継は日本戦や決勝などの60試合となった。
W杯北中米大会が主となるFIFAの26年までの4年間の収入そのものも約130億ドル(2兆円規模)で、こちらは22年までの4年間の約2倍にまで膨らんだ。
ただ、FIFAのホクホクな懐事情とは裏腹に、現地ではチケット高騰による批判の声が高まっている。
チケット価格を押し上げる要因は、今大会から導入された「ダイナミックプライジング」だ。朝日新聞が4月にニューヨーク発で配信した記事では、4月に公式販売された決勝戦のチケットは3回値上げされ、最大1万990ドル(約174万円)まで上昇。カタール大会の最大価格から7倍近い高値相場となったという。