〈肥大化へ進むサッカーW杯〉過去最高の放映権料、高騰するチケット価格…FIFAビジネス拡大の光と影

2026.06.23 Wedge ONLINE

 今大会はカナダ、メキシコとの共催の形をとるが、実際の試合は全体の7割超が米国内での開催となっている。そもそも米国、カナダのほとんどの地域では、チケットの転売は合法となっており、4月末にはチケットの転売価格が急騰。朝日新聞の4月22日付記事は、決勝のチケットが転売市場で8万ドル(約1270万円)を超える価格で取引されたことを取り上げ、日経新聞の4月29日付記事では、FIFAの公式転売サイト上に1枚3億円超で出品されたことが確認されたと報じられた。

 日本戦も例外ではない。開幕約1週間前の日経新聞の記事によれば、米調査会社チケットデータの情報として、チケット価格が上昇傾向にあることを伝える。

 約8割の試合が6月1日までの2週間で2~4割上がり、日本代表の対スウェーデン戦の最も安い価格帯の席も平均で8万円超まで37%上昇したという。日本のファンには、昨今の円安は現地滞在時の食費などの円換算物価にも跳ね返り、現地観戦はますます遠のきそうだ。

 また、今春に開催された野球の国際大会「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」が国内の地上波で中継されなかったことなどを受け、日本でも、国民的関心が高いスポーツイベントを誰もが無料で視聴できる「ユニバーサルアクセス権」の是非が議論されているが、日経新聞の6月11日付記事では、FIFAの放映権を統括するジャンクリストフ・プティ氏が「決して賛成しない」との立場を明かした。

 プロスポーツの本場でもあり、人気や注目度が高まる試合の観戦チケット価格が高騰する米国内でも、もはや受容の限界を超えつつある。日経新聞は、トランプ大統領が5月6日に米紙ニューヨーク・ポストの取材で、約1000ドル(約160万円)する米国代表の開幕戦チケットに「観戦にはいきたいが、正直なところ、私もその金額は払わないだろう」と語ったことを紹介。実際、観戦にかかる費用の高騰は、サッカーファンの需要を鈍化させ、決勝戦が行われるニューヨーク近郊をはじめとした開催都市のホテルの宿泊価格が値下げに転じる事態を招いたという。

オイルマネーとも結びつくFIFA

 一方、大幅な収益増を見込むFIFAは、4月の理事会において、賞金総額を従来計画比から15%引き上げて過去最高の8億7100万ドル(約1390億円)」に引き上げた。優勝賞金は史上最高の5000万ドル(約80億円)。前回の22年カタール大会から800万ドル(約12億8000万円)増となった。

 ただし、FIFAの引き上げは、北中米の広域開催によって、参加経費がかさむことを懸念した出場国・地域から相次いだ分配金の増額要求に応じた形だ。FIFAは非営利団体であり、収益はサッカー界へ還元する姿勢を表明するものの、インティノ会長の報酬総額は日本円で12億円超となっている。

 FIFAに莫大な収益をもたらすW杯は、潤沢なオイルマネーとも結びついた。34年大会の単独ホスト国に決まったのは、サウジアラビアだ。潤沢なオイルマネーは、サッカービジネスの拡大路線を突き進むインティノ会長にとって大きな魅力で、国が抱える人権問題は巨額の資金で洗浄される「スポーツウオッシング」との批判もどこ吹く風である。

拡大路線への懸念

 FIFAは21年にはW杯を将来的には2年に1度にする隔年開催の実現可能性を探ることも報じられた。インティノ会長が牽引する拡大路線に懸念はないのか。

 同じく世界的な市場規模を持つ五輪は、1984年のロサンゼルス五輪を転機として、商業主義へと舵を切った。放映権料や1業種1社に限ったスポンサー契約を編み出し、スポンサーの価値を向上させることで契約金も高騰させた。

 画期的なこの手法は、その後の他のスポーツイベントでも活用された。しかし、近年は、五輪も大会の肥大化によって開催都市への負担増や放映権料やチケットの高騰など、ひずみが生じている。

 コロナ禍の東京五輪の開催にも強硬的だった国際オリンピック委員会(IOC)の姿勢は、日本国内の「五輪離れ」を招いたとされる。FIFAが蜜月にあるサウジアラビアだが、男子ゴルフの新興リーグ「LIVゴルフ」は、同国の政府系ファンドが支援を打ち切ることで存続が危ぶまれる事態に暗転した。

 それでも、世界的なスポーツイベントを掌握し、サッカーの価値の最大化の指標に収益性を高めることを念頭に置くFIFAの姿勢は尖鋭化の流れが続きそうだ。