ウォールストリート・ジャーナル紙の7月6日付け社説が、「オープンAIのサム・アルトマンは米政府と社会主義的取引をしようとしている。それはファウスト的取引(悪魔の契約)だ」と述べている。この社説は興味深い。
社説は、なぜアルトマンは政府を関与させようとするのかと問い、次の三点、①政府との連携を通じて自社の資金調達コストを引き下げたい、オープンAIは「強力なライバルと異なり、データセンター構築を自己資金で賄えるほどの潤沢な現金や利益の蓄積を有していない」、②「政府が株主となれば、規制上の優遇も期待できるかもしれない(AIモデルの承認手続の迅速化、データセンター建設の許認可、あるいは政府契約の獲得など)、③政府の出資は暗黙の保証となる(「大きすぎて潰せない」)と説明する。
さらに、同社の顧問などにいる民主党系の有力者が同社のリベラルな思考に影響を与えているかもしれないと言う。そして、社説は、①「いかなる政府所有も、企業に大きなコストをもたらす」(フランスのルノーの例、日本製鉄のUSスチールの例、中国の企業の例)、②「活力ある新産業が政府の付属機関のような存在になってしまえば、米経済全体が損害を被る」、③「オ-プンAIもまた、自らの力で成功するか失敗するかを決めるべきだ」と述べ、あくまで自由な資本主義の競争の中で発展させるべきだと主張する。
企業や資本主義を強く信奉する側から見れば、基本的にそうであろう。しかし、今問題になっているのは、国家安全保障への影響やAIの人間の生活に与えるインパクトの大きさに鑑みれば、自由競争ではなく、何らかの規制、課税、そして恐らく国際的ルールが必要ではないかということである。
また、莫大な創業利益に対する社会の反感も根強くあり、企業はそれも恐れているようだ。既にデータセンター建設には反対運動も起きている(ニューヨーク州は7月14日、新たな建設許可を最大で1年間凍結すると発表)。
他方、AI企業には、グーグルやメタ等大企業のほか、これから競争に参加せんとする新進のスタートアップ、さらにその間にある恐らくアルトマンのオープンAIやアンソロピックなど発展を始めた企業がある。これらの企業はそれぞれの思惑を持つ。今から競争に入るスタートアップは、政府介入に強く反対している。
社説は、オープンAIは、米政府あるいは政府系ファンド(ソブリン・ウェルス・ファンド)への株式の5%付与を検討しているという。アルトマンは、アラスカ州民ファンド(正式名称は「アラスカ永久ファンド」)の如きものを想定しているといわれる。
政府の経済への介入は、必要最小限にすべきだ。それに、今の米政権の動きを見ると政府がいつも賢いとは限らない。当然ながら、企業や市場は、過度な介入や政策は望まない。
さらに、米政府の介入は、日本等その他の国にも直接影響する。国際的な一定の基準も必要になる。6月のエビアン主要7カ国首脳会議(G7サミット)でも議論された。
なお、サム・アルトマンは、7月2日付けフィナンシャル・タイムズ紙に「AIを全ての者にとって安全にする方法」と題する記事を寄稿している。その中で、①必要な基準設定のための米主導の国際フォーラムを立ち上げるべきだ、②AIは巨大な利益をもたらす、しかし同時に重大な危険もある、③安全性の評価を標準化する必要がある、④国際協力が不可欠である、一国だけでは対処できない(航空協力や原子力協力などの例)、⑤規制は必要だが、イノベーションは企業がする、⑥AIは民主的な政府が主導すべき等と主張している。