「でもスタートアップは違う。赤字でもマーケットを取らないと勝てない。Amazon、Uber、Netflixなどの成長が、それを示しています。現代、じっくり時間をかける戦い方では勝てないんです」
そんな急成長を支えるために必要なのが「強い経営チーム」だと大櫃氏は信念を持って語る。
「スーパーマン1人では、急成長期の壁は乗り切れない。私は最低3人、できれば4人の強い経営陣が必要だと考えています。例えばマネーフォワードの創業者である辻庸介氏はよく知られていますが、彼とほぼイコールの立場で話せる経営陣、それを支えるエンジニアが揃っていました。急成長期に顧客から問い合わせがあっても、社長1人の会社では社長が忙しくて捕まらない。でも、強い経営陣がいる会社は、誰かがカバーする。結果、お客様の信頼を得ていくんです」
大櫃氏は融資の判断でも、この原則を貫いた。
「スタートアップの融資では、社長だけでなく、CFO、CTO、CIOといった経営陣全員と会う。経営陣が強いメンバーで集まっていて、お互いをリスペクトしている会社は本当に強い。そういう会社に融資していると間違わないんです」

大櫃氏は、地方銀行がスタートアップ支援で失敗する”ある共通パターン”を指摘する。
「これまで、何度か地方銀行から『スタートアップ支援を過去に何回かやったけど失敗した』という話を聞いたことがあります。実はほぼ同じ要因で失敗しているんです」
地方にも優れた人材は揃っている。例えば、世界的にも評価される知財を持つ教授がいたとしよう。その教授が、事業化を考え地銀はそこに融資する。
「でも、大学の先生はチームを作れない方が多いんです」
結果、急成長期に対応できずにつまずく。融資した地銀は貸し倒れを経験する。そして、スタートアップへの融資はうまくいかないと僅かな経験で結論づけてしまうのだ。
「そもそもスタートアップには3~4人の強いチームが必要だということを理解していないまま始めるから失敗する。そして、大学教授にはチームを作れない人が多いことを知らずに融資してしまう。この2つが失敗の要因です」
では、技術力のある大学発ベンチャーに勝ち目はないのか。大櫃氏は「ディープテック」には時間軸を考慮した別の戦略が必要だと語る。
「ディープテックは時間がかかる。ITのように3~5年で上場するようなスピードは望めない。10年、15年かけて量産化し、社会に実装していく世界です」
そこで、大櫃氏が提唱するのは「ハイブリッド型」だ。
「最初は社長1人でもいい。日本型の階段を上る経営で、コツコツと時間をかけて成長する。ただし、プロダクトマーケットフィットして量産に近づいたタイミングで、資金を大きく集めてスタートアップ型に切り替える。このハイブリッド型がディープテック企業には必要です」
つまり、大学発ベンチャーの失敗を避けるには、成長段階に応じた戦略の使い分けが鍵となる。地方銀行も、この時間軸を理解した上で支援することが求められているのだ。
大櫃氏は、AI時代のスタートアップを取り巻く環境変化を、鋭く見抜いている。
「今、アメリカでは資金調達の形が大きく変わっています。最初の会社設立時に100億円、あるいは50億円を一気に集めて、その後はファイナンスをしない。次に登場する時は、もう会社を売却するか上場するか、なんです」
従来の日本のスタートアップは、シード、シリーズA、シリーズBと段階的にエクイティファイナンスを受けるのが一般的だった。しかし、AI時代はそのモデルが通用しなくなりつつある。