本当に伸びる会社はここが違う…“伝説のバンカー”大櫃直人氏が語る目利きの極意

「例えばパランティア・テクノロジーズは、最初に集めたきりで、その後は国のお金で成長した。AI企業のM&Aも、最初にドカンとお金を集めて開発し、ある程度できたところで大手の傘下に入っていく。こういうやり方に変わってきています」

 この変化は、大企業との協業にも影響する。

「今までは、大企業はシリーズEくらいの成熟期に『この会社は安心だね』と出資して業務提携していた。でも、もうそういうチャンスは巡ってこない。一か八かで目利きを生かして、本当のスタート時に資本参画しない限り、資本業務提携は結びつけられない時代になっています」

 一方で、ディープテック領域では国の支援が重要だと大櫃氏は強調する。

「ディープテックは量産化に大きな資金が必要で、『死の谷』と呼ばれる難所がある。15年、20年のリスクを民間金融機関が単独で取るのは厳しい。国が一定の指針を示すことで、金融機関もリスクを取りやすくなります」

「生まれてこなかった30年」を終わらせるために

 大櫃氏がみずほ銀行からミダスキャピタルに移った理由、それは「上場後の成長企業支援」への強い思いだった。

「スタートアップが上場すると、証券会社はIPO支援チームを引き上げる。VC(ベンチャーキャピタル)もインサイダー情報を持つと売却できないので、経営陣から距離を置く。上場はスタートラインのはずなのに、周りを見渡すとサポーターが誰もいなくなる。これは良くないと思いました」

 大櫃氏はみずほ銀行時代、上場後の成長企業を専門に支援する新しい体制を構築した。300~400社を1つの拠点に集め、スタートアップから時価総額5000億円規模になるまで、同じチームで一貫してサポートする。そんな前例のない仕組みを作り上げた。

 しかし、大櫃氏の視線はさらにその先を見据えていた。

「日本は『失われた30年』と言われますが、私は『生まれてこなかった30年』だと思っています。GAFAMのような企業が30年間、日本から生まれていない。これが最大の課題です」

 産業の新陳代謝を促す強い成長企業を生み出す。その思いが、大櫃氏をミダスキャピタルへと導いた。

「ミダスには、成長を圧倒的にスピードアップさせる仕組みがある。バイセルテクノロジーズやGENDAは、設立6~7年で売上1000億円規模になった。この短期間で1000億円を作る秘密を知りたかったんです」

 その秘密とは何か。

「どんなスーパースター社長でも、24時間365日しかない。どこかで成長の限界が来る。急成長企業の共通項は、それが完全に『仕組み』に落とし込まれていること。再現性が担保されている。この仕組みづくりが本当に上手なんです」

 そしてもう1つ、大櫃氏が強調するのが「相互扶助」の文化だ。

「大企業だと出世争いで足を引っ張り合うこともありますが、急成長企業は成長の過程を楽しんでいる。お互いに協力し合う関係性が自発的にできている。ミダスではそれを『相互扶助』と呼んでいますが、これが企業成長に大きく繋がっています」

 最後に、大櫃氏はこれからスタートアップを始める、あるいは成長戦略で悩む経営者に3つのメッセージを送った。

「1つ目は、環境変化をしっかり捉えること。大企業との関係性、IPO一辺倒からM&Aへのシフト、AIの進展で大きく環境が変わっています。2つ目は、お金が流れている領域を見極めること。今なら宇宙、防衛、サイバーセキュリティ。『守る』ことにフォーカスすると、大きなお金が動いている。どこで戦うかという領域選択が重要です。そして3つ目は、優秀な人材をいかに集められるか。サラリーやストックオプションではなく、理念のもとに集まる仲間をどれだけ集められるか。これは昔も今も変わらず、これからの時代、より重要になってくると思います」

 伝説のバンカーは今、投資家として新たな挑戦を始めた。その眼差しは、日本から世界に通用する成長企業を生み出すことに向けられている。

(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)