
前回、休日をつぶしてまで仕事をしている旦那さんが、労われるどころか、奥さんから怒られてしまう、という話をしました。
とはいえ、そんなふうに旦那さんが奥さんに「仕事への理解がない」と感じているとき、奥さんも旦那さんに「家庭への理解がない」と憤っているのです。
では、どうすればよいのでしょうか。
お笑い芸人であり、YouTuberでもあるオリエンタルラジオの中田敦彦さんは、まだ動画配信を始める前、主にテレビの仕事だけをやっていたとき、奥さんから「収入を増やしたいよね」ということと、「家族の時間を増やしたいよね」ということを同時に求められたそうです。
それで中田さんは、「家庭での時間を増やしながら収入を増やすって、オレにスーパーマンになれって求められているのか?」と疑問を持ったと話されていました。
これは、中田さんの家庭だけの、特別な話ではありません。
いま多くの家庭では、旦那さんは家事も育児もやるのが当たり前、仕事で成果を出しながら家庭では心の余裕を忘れない、能力も性格も人間力も高い、そんなスーパーマンでいることを求められているのです。
しかし、そんなことは可能なのでしょうか。
私たちビジネスマンが仕事でやっていることを家庭に当てはめてみると、スーパーマンにならずとも、解決の糸口が見えてきそうです。
「両輪思考」という考え方があります。AかBかのどちらかではなく、AもBも満たす方法はないかを探す思考法です。
たとえばものを売るとき、利益も売上も両方とも伸ばしたいものですが、利益を増やすために値段を上げれば売上は下がる、値段を下げれば売上は上がるが利益は下がってしまう、そう考えてしまうものです。
しかし、そうした固定観念を捨てて、利益も売上も上がる方法を探すのです。
トヨタ自動車は、かつて同業他社が工場を海外に移転して国内工場を閉鎖していくなかで、部品を作る子会社たちに厳しいコストダウンを要求したと言います。「今の値段の10分の1にしてください。そうしないと海外の会社に負けてしまいます」と、子会社たちに要求したそうです。
値段を10分の1にしたら、子会社はつぶれてしまいます。トヨタはなんてひどい会社なんだと思うかもしれませんが、そうではありません。トヨタは「10分の1でも利益が出る状態を作りましょう」と言って、生産方式の見直しに一緒に取り組んだのです。そして、値段が10分の1になっても十分に利益が出る体質を、子会社と一緒になって作っていったのです。
こうした積み重ねによって、トヨタはコストも品質も高い、世界一の自動車会社へ成長していったと言われています。
この両輪思考の考え方は、私が専門としている、飲食店のような小さな規模のビジネスでも重要です。
お店に来るお客さんを満足させようと思えば、お金をかけて良い食材を仕入れる必要があり、給料の高いシェフを雇う必要があり、豪華な内装でおもてなしをする必要がある。そんな固定概念にとらわれて、お金をかけて利益を削り、お客様の満足度や売上をとろうとしていては儲かるはずがありません。
「安くて、うまくて、接客が良い」、そんな無茶苦茶な要求を顧客は持っています。この要求をいかに両輪思考で成り立たせるかが、飲食店の勝負です。
そして、従業員の要求もとどまることを知りません。「働きがいがあって、楽しくて、給料がよくて、休日が多い」ことを、従業員は求めてきます。
この顧客のニーズと従業員のニーズにこたえながら利益を出していかないといけないのですから、飲食店ビジネスは大変です。
ビジネスは突き詰めれば、いかに少ない資源で大きな成果を出すかに尽きます。
壮大なことを言えば、ビジネスどころか、人類はこの両輪思考のレースをさまざまに工夫をして生き残ってきたわけです。
だからこそ私たちは、経験を積むうちに、新人の頃は無理であったはずの両輪思考ができるようになっていきます。
皆さんも、新人の頃に比べたら、少ない時間で多くの仕事をこなせるようになっているはずです。
会社からは、もっと売上を伸ばしながら、残業を減らせという要求が来ていることでしょう。それでも、自分の仕事を誰かに任せたりして労働時間を減らしながら、収入を増やせているのではないでしょうか。
私たちは、顧客や従業員、会社からの、一見無茶と思える要求にこたえるうちに、社会的に価値のある存在へと、自らを成長させてきているわけです。
これは、家庭でも同様です。