これはCO2を“産業廃棄物”ではなく、輸送・貯留がセットで価値を持つ「貨物」として扱う発想だ。
【表】日本の主要プレイヤーによるCCSプロジェクト・投資マップ
大手総合商社でエネルギー事業に携わっていた戦略コンサルタントの高野輝氏は、「商社にとってCCSは“次のLNG”になり得ます。輸送船、液化技術、貯留権益、保険、オフテイク契約まで一気通貫のビジネスに拡張できる」と語る。
日本企業は LNGで培った液化・海上輸送の知見をCCSに転用できる。これは世界的にも競争力がある分野で、技術輸出産業としてのポテンシャルは大きい。
CCSが普及しない最大要因は、コストである。経産省やRITE(公益財団法人 地球環境産業技術研究機構)は、CO2貯留コストを以下のように試算している。
・現状:1万2000~2万円/t-CO2
・2030年目標:6000~8000円/t-CO2
特にコストの6~7割を占めるのが「分離・回収」。CO2を排ガスから分離し、濃度99%まで高純度化する工程に膨大なエネルギーが必要だからだ。
「99%ルールがコストを跳ね上げています。95%で許容されれば回収エネルギーを3~4割削減できるケースもあります」(前出・田代氏)
安全性の確保は欠かせないが、欧州では95~97%のプロジェクトもあり、国際基準との整合性が議論されている。日本でも経産省が規制の見直しを開始した。
もし基準緩和が実現すれば、分離・回収コストが劇的に下がり、ビジネスとしての自立性が一気に高まると見られている。
国際的に見ると、CCSはすでに熾烈な投資争奪戦に突入している。
・ノルウェー「Northern Lights」:欧州域内CO2を受け入れる越境CCSの先駆け
・米国「45Q税額控除」:貯留量に応じて最大85ドル/トンを企業に還元
・中東産油国:自国産業の脱炭素化とCO2輸出ビジネスを同時推進
これらの国は、政策支援・補助金・規制整備を強烈に進めており、「CCSを早期に産業化した国が覇権を握る」との見方が強い。
日本は技術力では世界トップクラスだが、ビジネス化のスピードでは米欧より遅れている。その遅れを一気に取り戻すための政策が、九十九里沖を皮切りに急浮上しているわけだ。
CCSを推進する一方で、課題も無視できない。
(1)地震大国・日本特有の地質リスク
地層の安定性を長期的に確保できるかという懸念は大きい。ただし苫小牧実証では微小な地震誘発は確認されず、安全性は確保されたとされる。
(2)長期責任(Liability)問題
貯留後数十~数百年にわたり漏出リスクがゼロとはいえない。国がどこまで責任を負うのか、制度設計は道半ばだ。
(3)地域住民の理解
CCS設備に対する心理的抵抗は依然として強く、事業者による丁寧な説明が欠かせない。これらの課題に対応しなければ、事業化は加速しない。
CCSは単なる環境対策ではなく、造船・エンジニアリング・商社・資源開発など日本の得意分野を総動員できる 巨大な産業ポテンシャル を秘めている。
さらに、LNGやプラント輸出で蓄積した日本企業の物流・技術・金融の知見は、CCSと極めて親和性が高い。日本が“脱炭素の輸出国”に転じるチャンスすらある。
しかし、実現の鍵を握るのは以下の3点。
(1)分離・回収コストを決める「99%ルール」の突破
(2)国際標準に基づく規制整備のスピード
(3)商社が描く越境CCSモデルの確立
これらがそろったとき、日本のCCSは「負担」ではなく新たな飯のタネへと変貌するだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)