がんや認知症も予測可能になる?免疫×遺伝子×生活習慣で“未来の病気”を可視化

なぜ製薬会社はEdgewaterのデータに“期待する”のか

 Edgewaterのビジネスモデルの肝は、BtoCの健康サービスではなく、製薬会社の創薬開発向けデータの提供にある。

 福澤氏は、製薬業界の現状をこう分析する。

「国内の製薬会社の研究開発費は欧米の4分の1。研究には9~16年かかり、成功確率は2万5000分の1、新薬開発には平均3000億円かかるんです。国内の製薬会社がいま最も求めているのは、大きなお金を掛けずに詳細なゲノム・免疫・マルチオミクス等のリアルワールドデータを活用して新薬を開発する事なんです」

 しかし、現在流通するリアルワールドデータ(Real World Data/日常生活から得られる健康や医療に関連したデータ )は、レセプトや電子カルテに限られ、創薬に必要な免疫・遺伝子情報を欠いた低解像度データ。一方、大学と連携した臨床試験では莫大なコストと時間がかかり、得られる症例数も数百例規模が限界であり、AIによるビッグデータ解析には不十分だ。

「臨床試験の場合、医療機関を通さずに免疫・遺伝子データを同時に取ることはできない。しかし我々の方法なら、個人が“ヘルスケア”として同意し、郵送検査で取得できる。だから1/10のコストで、数千~数万例を短期間で集められるんです」

 これこそが、既存リアルワールド(RWD)プレイヤー企業では絶対に提供できない差別化ポイントだ。

 さらに、同社はこの仕組みそのものを国内で特許化している。「特許で守られているから、同じことは誰もできない」のだ。

異例の収益構造、本丸はアメリカ市場

 福澤氏は、ユニコーン級の事業には「単価を上げるか、数を増やすか、もしくはその両方が必要だ」と語る。

「スタートアップの創業者は誰しもユニコーンを一度は夢見る。しかし、数千円の商品で1000億円の売上を作るのは非常に厳しい。製薬企業向けなら、1件のデータ価値は数十万円にもなる。これはもう“単価”が違うんです」

 具体的には次の構造だ。

 1.某遺伝子検査会社と提携
 2.某社の遺伝子検査実施ユーザーに“免疫検査を無料”で案内
 3.希少価値の高い統合データセットを構築
 4.これらをAI解析する事で様々なインサイトを構築
 5.これらのデータ&AIインサイトを製薬企業が購入(高単価×巨大量)

 つまり、BtoCで集客せずとも、“すでに存在する遺伝子検査ユーザー”を活用できる。

 福澤氏は「遺伝子検査を受ける人は健康意識が高く、自分の将来の病気のリスクを知りたくて遺伝子検査を実施したが、結果は『必ず病気になるとは限らない』。従って、追加で無料の免疫検査を受ける事で、精度高く自分の病気になる可能性を知れるのは歓迎であり、参加率は非常に高くなる」と断言する。

 さらに、海外ではこのモデルの価値がすでに証明されている。2018年、米国のDTC遺伝子検査会社「23andMe」は500万人の遺伝子データをグラクソスミスクライン(GSK)に450億円で提供した。

「同じ構造を“免疫×遺伝子”で作れば、価値はさらに高まる」

 福澤氏の視線は、はっきりと海外、とりわけ米国を向いている。

「23andMeには1500万人の遺伝子検査ユーザーがいる。日本の150倍です。幸いなことに、米国ではDTC免疫検査は全く普及していません。ここにアプローチできれば、市場規模もデータ量も桁違いになる」

 そしてこれらのデータ購入者は、世界最大規模の米国メガファーマ群であり支払い能力は最大。

 Edgewaterはすでに米国でこの技術を特許出願中。免疫検査キットをFDA承認の上、23andMeと交渉し、同社顧客向けに免疫検査を提供する構想を描く。