EUの「EV強制」失敗で再評価されるトヨタの戦略…背後に「中国EV支配」への恐怖

 この流れは、日本も例外ではない。政府は2028年5月をめどに、自家用EVに対して新たな税負担を課す方向で検討を進めている。焦点となっているのが「自動車重量税」への上乗せだ。

 EVは大容量バッテリーを搭載するため、同クラスのガソリン車より車重が重い。国土交通省は、これが道路インフラの劣化を早めているとして、「受益者負担の公平性」を理由に課税強化を正当化している。

 これまでEVは「環境に優しい存在」として補助金・減税の恩恵を受けてきたが、今後は「重くて道路を傷める車」として、ガソリン車以上の負担を求められる可能性がある。

「日本でも、EVはもはや“聖域”ではなくなりました。税制の変化は、EVが理想論から実用品へと扱いを変えられた象徴です」(同)

フォード「3兆円損失」が示したEV戦略の限界

 EVシフトの歪みは、企業決算にも露骨に表れている。米フォード・モーターは2025年12月、EV事業の見直しに伴い約195億ドル(約3兆円)という巨額損失を計上すると発表した。

 同社はEV専業ラインを急拡大させたが、需要は想定を大きく下回り、1台販売するごとに赤字を垂れ流す構造に陥っていた。結果、EV投資を縮小し、利益率の高いエンジン車やHVへ回帰する戦略転換を余儀なくされた。

「環境目標ありきでビジネスモデルを歪めると、必ずどこかで破綻する。フォードの損失は、その“授業料”だったと言えるでしょう」(同)

トヨタの「マルチパスウェイ」は正解だったのか

 こうした中で再評価されているのが、トヨタ自動車の「マルチパスウェイ」戦略だ。EV、HV、PHV、水素と複数の技術を並行して追求する姿勢は、これまで「EV出遅れ」と批判されてきた。

 しかし、EUの方針転換は、その批判を大きく覆す。

「結果論ではありますが、トヨタは市場と技術の不確実性を最も冷静に織り込んでいたメーカーです」(同)

 もっとも、中国勢の台頭が止まるわけではない。欧米がエンジン車を延命させる間に、中国メーカーは新興国市場でEVの支配力をさらに高めていく可能性が高い。

EVは終わらない…ただし「幻想」は終わった

 EVという技術が消えることはない。だが、2035年を境に世界が一斉にEVへ移行するという「強制シナリオ」は、経済合理性と地政学リスクという現実の前に修正を迫られた。

 いま起きているのは、EVブームの崩壊ではない。自動車産業が「脱炭素」と「産業競争力」の両立を模索する、現実主義への回帰である。

 理想は重要だが、産業は理想だけでは走らない。EUの決断は、その当たり前の事実を世界に突きつけたといえるだろう。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)