現在、ノマドの生産能力は当初の月産約1,200台から、最大で約3,300台まで引き上げられたとされる。しかし、それでも需要にはまったく追いついていない。理由は単純で、日本だけでなく、中東、オーストラリア、アフリカなど、世界中から引き合いが来ているからだ。
「スズキにとって悩ましいのは、日本市場が“最優先”ではない点です。インド工場の生産はグローバル配分が前提で、日本だけに台数を振り向けるわけにはいかない」(同)
さらに、物流の壁も大きい。完成車を運ぶ専用船の不足、日本の厳しい安全基準や排ガス規制に対応するための追加検査工程などが、ボトルネックとなっている。単にラインを増やせば解決する問題ではないのだ。
2026年1月30日の受注再開を前に、全国のスズキ販売店は頭を抱えている。
前回のような「先着順」を採用すれば、アクセス集中によるシステム障害や、クレームの嵐は避けられない。そのため今回は、完全抽選制を導入するディーラーが続出するとみられている。
加えて、転売対策も大きなテーマだ。すでに一部では、
・1年間の転売禁止契約
・名義変更の制限
・ローン利用を条件とする販売
といった独自ルールを検討する動きもある。
「販売店としては“本当に欲しい人”に届けたい。でも、法的にどこまで縛れるのかは非常に難しい問題です」(スズキ系ディーラー関係者)
結果として、ユーザーにとっては「早い者勝ち」から「運試し」へとルールが変わりつつある。欲しくても、買えるかどうかは運次第。それが今のジムニーノマドを巡る現実だ。
ジムニーノマドの争奪戦は、単なる人気車種の話にとどまらない。
そこには、スズキが直面する供給責任とブランド価値のバランス、そして「待ってでも欲しい」と思わせる商品が生まれたとき、市場がいかに歪むかという現代的なテーマが凝縮されている。
「本来、メーカーは“売れるものを安定供給する”のが理想です。ただ、ノマドはその理想と、グローバル生産という現実が真正面から衝突した象徴的なケースと言えるでしょう」(荻野氏)
皮肉なことに、ジムニーノマドの唯一無二の商品力が、結果として市場を混乱させている。だがそれは、スズキが長年培ってきた「他社が作らないクルマを作る」という哲学の裏返しでもある。日本のSNSと販売店が再び熱を帯びる日は、もう間もなく訪れる。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)