
●この記事のポイント
・NTTデータが打ち出した「全工程AI自動化」は、人手不足に悩む日本SI業界の構造を根底から揺さぶる。人月商売の終焉と、成果報酬型への転換を迫る衝撃の中身を読み解く。
・要件定義から実装・テストまでをAIに委ねる開発は、生産性向上の切り札となる一方、「直せないシステム」という新たな技術的負債を生む危険性も孕む。その落とし穴とは。
・AIネーティブ開発は日本ITの希望か、それとも制御不能なブラックボックスへの道か。NTTデータの挑戦を通じ、AI時代に人間と組織が守るべき「知性と責任」の在り方を問う。
「日本のSIerの代名詞」が、ついに“禁断の一歩”を踏み出した。NTTデータグループが掲げるのは、要件定義から設計、コーディング、テスト、運用改善までを生成AIで連結する「AIネーティブ開発」への大転換だ。狙いは明快である。足りない人手を、AIで埋める。人月で回してきた業界の常識を、自ら壊す。
だが、問いはここからだ。それは「生産性革命」なのか。それとも、誰も中身を説明できない“巨大ブラックボックス”を社会インフラに埋め込むことなのか。
●目次
生成AI導入というと、どうしても「コードを書かせる」イメージに引っ張られる。しかし、本丸はむしろ前工程と後工程にある。
要件定義:議事録・現行業務・例外パターンを整理し、矛盾や抜け漏れを検出する
設計:アーキテクチャ、データモデル、API仕様、セキュリティ要件の“たたき台”を高速に作る
実装:変更差分の整合性を保ちながら、依存関係更新・静的解析・ライセンス確認まで含めて回す
テスト:ユニットからE2E、負荷、回帰までを自動化し、テストデータも生成する
要するに、「人が手を動かす工程」をAIでつなぎ、開発を“連続生産”に近づけようという発想だ。国内大手SI出身のITジャーナリスト・小平貴裕氏はこう整理する。
「AI導入の主戦場は、実はコーディングより“要件の矛盾”と“テストの網”です。コード生成は見栄えがいい。でも障害を減らすのは、要件とテストと運用設計。そこまで含めて自動化しようとするなら、確かに産業構造を揺らします」
舵を切らざるを得ない理由は、日本のIT現場が抱える構造問題にある。老朽化した基幹系の刷新、サイバー対策、AI導入の圧力――需要は増えるのに、供給(担い手)が追いつかない。
現場ではすでに「属人化」と「燃え尽き」が同時進行している。古い言語、古い業務、古い運用に精通したベテランが抜ける一方で、若手は“保守で消耗するキャリア”を避けがちだ。需要過多のなかで、従来の延命策(増員・外注・残業)には限界が来ている。
「日本のレガシー刷新は、技術課題というより“人の課題”です。ノウハウを持つ人ほど希少で、引退も近い。AIは、その知の継承を仕組みに落とす最後のチャンスかもしれない。ただし、雑にやれば“継承”ではなく“断絶”になります」