完成機だけを見れば、米中企業が主役に見える。しかし、産業構造を深掘りすると、別の景色が浮かび上がる。
人型ロボットは全身に40~50個もの関節(アクチュエータ)を持つ。その一つひとつに、高精度モーター、減速機、直動部品が必要となる。この分野で世界的に圧倒的な存在感を放っているのが、日本企業だ。
ニデックはEVで培った量産型モーター技術をロボット関節へ転用し、価格と品質の両立を実現している。THKは直動技術を基盤に、ロボット用プラットフォーム「SEED-Noid」を展開し、ハードウェアの共通化を進める。ハーモニック・ドライブ・システムズは精密減速機で世界シェアを握り、指先の制御を支える。
ロボット工学の専門家でロボットエンジニアの安達祐輔氏は次のように語る。
「生成AIが“脳”だとすれば、日本企業は“神経と筋肉”を支配している。ここを押さえている国は、最終的に主導権を失わない」
金鉱ラッシュで最も儲けたのがスコップ売りだったように、現在のロボット産業で日本は「世界最高のスコップ提供者」なのである。
日本は部品供給国にとどまらない。完成機でも独自の進化を遂げている。象徴的存在が、川崎重工の人型ロボット「Kaleido(カレイド)」だ。2026年時点で第9世代に進化したKaleidoは、家庭向けではなく、災害現場や建設現場を主戦場とする。
100kgを超える重量物を扱い、転倒しても破損しない設計思想は、「人と同じ場所で働くロボット」という日本的価値観を体現している。
「日本のロボットは“速さ”や“派手さ”より、“人と共存できるか”を基準に設計されている。この思想は介護・医療分野で決定的な差になる」(同)
少子高齢化の最前線に立つ日本には、世界最大規模の介護・福祉データが蓄積されている。「人を抱きかかえる力加減」「歩行補助のリズム」「恐怖感を与えない動作」といった暗黙知は、単なるAI学習データでは代替できない。
この「身体知」は、ヒューマノイドが社会に受け入れられるかどうかを左右する決定的要素となる。
「最終的に家庭に入るロボットは、賢さより“安心感”が問われる。日本は世界で最も厳しい実験場をすでに持っている」(同)
中国が量産を担い、米国が脳を作るとすれば、日本が担うべき役割は明確だ。それは「身体」と「所作」の世界標準を定義することだ。精密工学、介護現場の知見、共存思想。この三つを融合させたとき、日本は単なる部品供給国から、世界中のロボットに「動きの哲学」を与えるプラットフォーマーへと進化できる。
CES 2026が示したのは、日本の敗北ではない。それは、「精密工学の逆襲」が始まった瞬間だった。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)