トヨタのHVが「エンジン技術の結晶」だとすれば、BYD流は「電池を前提にエンジンを組み込む合理化された移動体」に近い。設計思想そのものが異なる。
もしフォードがBYDの電池供給を得て、価格競争力を備えたHVを米市場に投入できれば、トヨタの“利益の厚い中価格帯”に対しても圧力がかかる。勝負を分けるのは燃費差だけではない。消費者が実際に比較するのは、総支払額と実用性だ。
フォードの動きは、米国メーカーにとって不都合な事実を突きつける。電池サプライチェーンの中核にある精製・材料・セルの領域で、中国が依然として圧倒的な存在感を持つという現実だ。
EV・HVを問わず、車両の電動化が進むほど、「誰が電池を押さえるか」が競争力を左右する。
米国メーカーの本音は単純である。中国を排除すれば価格競争で負ける。中国を受け入れれば安全保障上の批判を浴びる。
この“矛盾”を抱えたまま、米国メーカーは生き残り戦略を迫られている。
この「米中ハイブリッド連合」の萌芽に対し、競合勢も黙っていない。
テスラは、BYDに世界販売台数で後れを取ったことで、価格戦略の再設計を迫られている。廉価モデルの投入が急がれるが、電池コストで差が埋まらなければ、テスラは「高額なプレミアムEV」へ押し込められる懸念がある。
一方のトヨタは、全固体電池の実用化を急ぐと同時に、中国市場ではBYDとの合弁などを通じて供給網へのアクセスを確保してきた。敵を排除するのではなく、敵の技術も市場も利用する。この“全方位外交”が、トヨタの底力である。
最大の不確定要素はワシントンだ。対中強硬を掲げるトランプ大統領の周辺では、対中依存を「国家の弱体化」とみなす声が強い。側近のピーター・ナヴァロ氏が不快感を示したとされるのも、その文脈だ。
ただし、トランプ氏は理念よりも取引を優先する政治家でもある。「中国技術を使っても雇用を国内に作るなら認める」「関税を回避したければ米国内投資を引き出す」こうしたディール型の判断が下される可能性は十分にある。
フォードにとってBYDとの協議は、経営再建の選択肢であると同時に、政治的な踏み絵になり得る。
自動車アナリストの荻野博文氏は次のように語る。
「フォードの決断は、『脱炭素』という理念が『実利』に置き換わったことを象徴しています。もはや100%米国製のEVという発想自体が幻想です。消費者が求めているのはブランドではなく、価格と性能のバランスです。フォードはその正解を中国に見出した。屈辱ではなく、生き残るための合理性でしょう」
一方で通商政策に詳しい国際政治経済研究者は次のような視点を示す。
「企業にとって中国サプライチェーンを使うこと自体は合理的です。ただし、関税・輸入規制・対中投資規制は今後も変動し続けます。最も怖いのは“政治決定でサプライチェーンが寸断される”ことです。価格を下げるための提携が、結果的に供給不安という別のコストを生む可能性があります」
この視点は、フォードの動きを単なる“敗北”ではなく、収益と政治のリスクを天秤にかけた意思決定として立体化する。
フォードの決断は、単なる企業の方針転換ではない。EV・HVを問わず、電動化が進むほど「電池と供給網」が覇権を握る時代が加速する。
欧州勢も、背に腹は代えられない局面に入ればBYDやCATLとの距離を詰めるだろう。100年に1度の変革期のゴールは、もはや「EVという単一の技術」ではない。
本当に問われているのは、中国の圧倒的な供給網を、いかに自社の競争力に“取り込むか”という、生存戦略そのものである。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)