航空会社OBで独立系アナリスト・経営コンサルタントとして活動する中村哲也氏はこう語る。
「欧州路線の迂回は往復で2〜4時間の飛行時間増につながる。これだけで1便あたりの燃料コストが数百万円単位で膨らむ。フルサービスキャリアは機材・乗務員の手当も複雑になるため、コスト増は単純計算以上に大きい」
自動車・物流(マツダ、中小運送会社)
マツダへの売りが目立つ背景には、同社の物流コスト感応度の高さがある。他の大手自動車メーカーと比べ、海外生産比率や部品調達網の構造上、輸送コスト上昇の影響を受けやすい体質とされる。軽油価格が1リットル190円を突破する中、価格転嫁が難しい中小運送会社を中心に業績悪化懸念が広がっており、国内物流業界全体に暗雲が垂れ込めている。
化学・タイヤ
石油を原料とする化学メーカーや、ゴム原料(ナフサ由来)を多用するタイヤメーカーもコストプッシュ・インフレの直撃を受けている。信越化学工業はエチレンを原料とする塩化ビニール樹脂の国内販売価格を4月から1キロあたり30円以上引き上げ、三菱ケミカルも複数製品の値上げを発表。需要が停滞する中での原料高は、マージンの大幅縮小を意味する。タイヤ各社もナフサ由来のゴム原料価格上昇への対応を迫られている。
エネルギー開発(INPEX・ENEOS)
原油高はそのまま利益に直結する。INPEXは前週末比410円(10.78%)高の4,210円まで上昇し、株式分割考慮ベースの上場来高値を更新。権益を持つ原油価格が上昇すれば追加コストなしで売上が膨らむ「レバレッジ型」の収益構造が、今局面では最大の強みだ。ENEOSも在庫評価益の膨張が期待され、ディフェンシブな買いが集まっている。
エネルギー関連株に詳しい市場アナリストは「原油が100ドルを超えた水準が定着すれば、INPEXの今期業績は保守的なガイダンスを大幅に上回る可能性がある。権益量と財務基盤の厚みは国内随一であり、地政学リスクのヘッジ先としての需要が株価を一段と押し上げている」と分析する。
海運(商船三井・日本郵船)
「有事の逆説」を体現しているのが海運株だ。商船三井、日本郵船、川崎汽船の海運大手3社は3月1日までにホルムズ海峡およびペルシャ湾内の航行を停止したが、これが皮肉にも株価急騰の引き金となった。
ホルムズ海峡の封鎖によりタンカーやLNG船は喜望峰経由への大幅迂回を余儀なくされる。航行距離が延びることで船腹の稼働が逼迫し、実質的な「船不足」が発生。海上運賃が急騰するとの観測から海運株全体に買いが集中した。商船三井の株価は3月2日に前週末比4%高の6,049円となり、2007年11月以来約18年3カ月ぶりの高値を更新。川崎汽船は6%高、日本郵船も4%高と、セクター全体が市場の主役に躍り出た。海運大手3社が出資するオーシャン・ネットワーク・エクスプレスも、中東周辺の発着貨物に対し1コンテナあたり最大3,400ドル(約54万円)の特別料金を課すと発表している。
「不足した船腹量という観点では紅海危機の際と似た構造だが、今回はホルムズという出口が塞がれた分、影響が更に根深い。長期化すれば超長期チャーター契約の締結ラッシュが起きる可能性もある」(大手証券海運担当アナリスト)
防衛関連(三菱重工業・川崎重工業)
地政学リスクの常態化は、今や「思惑買い」ではなく「国策」として市場に認識されている。三菱重工(7011)や川崎重工(7012)には、防衛予算の前倒し執行や自律型防衛装備(ドローン等)への需要増を期待した資金が継続流入。日経平均が急落する局面でも「有事の避難先」として機能し続けている。