中国自動車メーカー、比亜迪(BYD)の存在感が高まっている。2024年には人気女性俳優の長澤まさみを起用したテレビ広告が話題となった。街中でディーラーや広告を目にする機会も増えてきた。着実に日本での知名度をあげている。
一方で、走っている車を目にする機会はまだ少ない。日本自動車輸入組合(JAIA)の輸入車新規登録台数によると、2023年は1511台、24年は2223台、25年1~11月は3508台と伸びており、仏ルノーを抜いて外国メーカーの12位につけている。だが、年400万台規模の日本自動車市場からすると、まだまだニッチな存在だ。
電気自動車(EV)シフトが注目を集める中、世界最大の新エネルギー車(NEV。純電気自動車とプラグインハイブリッド車の総称)メーカーであるBYDはたびたび話題となる存在だが、日本では成長しているといえどもまだ一般消費者の選択肢に上がっていないのが現状だ。
26年はBYDがニッチから抜け出す転換点となるのではないか。その切り札となるのが、来夏に販売が予定されているRacco(ラッコ)だ。日本市場向けに開発された軽自動車規格のEVである。
日本市場の約4割を占める軽自動車は、これまで外資系が参入できなかった。この領域に切り込む切り札となる。世界各国に展開するBYDにとって、特定の国だけの専用車種の開発は初めてで、日本市場攻略の「本気」がうかがえる。
この「本気」を後押しするのが、本国である中国市場での成長鈍化だ。今までは将来の布石であった海外進出だが、今後は成長維持のための柱へと立ち位置が変わる。余裕を捨て、必死のシェア拡大戦略が始まる気配が漂う。
中国では20年を起点にNEVの急成長が始まった。10年代後半、BYDの販売台数は40万~50万台で停滞していたが、この波に乗って一気に拡大していく。24年には427万台(うち海外市場で42万台)、20年比でほぼ10倍増というすさまじい成長を続けている。
販売台数全体で見れば、25年も勢いは止まっていない。460万台を売り上げ、前年から30万台以上伸ばした。ただ、中国国内市場だけではマイナス成長だ。25年の販売台数は前年比30万台減の355万台にとどまった。25年6月までは好調が続いていたが、そこから急ブレーキがかかった。
転機となったのは、中国政府の介入だ。この経緯については、浜銀総合研究所調査部の奥山要一郎研究員のレポート「BYDが仕掛けた値下げ競争、背景に在庫増と電池新基準」に詳しい。
BYDが25年5月下旬に22車種の価格を引き下げるキャンペーンを始めたが、中国汽車工業協会は「産業の健全な発展を阻害し、消費者の利益を損なう」と批判。管轄省庁の中国工業情報化部も「無秩序な価格競争」だとして批判に加わった。
シェアを奪い合って激しい価格競争が続き、誰も利益を出せない消耗戦になることを、中国では「内巻」(インボリューション)という。海の渦のように、らせんを描いて回っていくと次第に円が小さくなっていくように、企業の利益が縮小していくことを指す。
中国では22年からデフレが始まり、さまざまな業界で「内巻」が繰り広げられている。自動車もその一つだ。
NEVの急成長の影で「内巻」は加熱してきた。23年には価格競争の過熱ぶりに政府が介入し、大手自動車メーカー16社が「公平な市場秩序の維持の承諾書」に署名させ、過剰な値引きを抑制するよう促した。