さらにアマゾンはアップルと新たな衛星通信サービス契約を締結しており、将来の対応モデルにおいてもAmazon Leoがサービスを継続提供することが決まった。
この動きは、対スターリンクという文脈で読むと意味が鮮明になる。スターリンクは通信キャリアT-Mobileと提携し、スマートフォンへの直接通信サービス「Starlink Mobile(旧Direct-to-Cell)」の展開を急いでいる。これに対してアマゾンは、世界で最もブランド力と普及率を誇るアップルデバイスそのものを「自陣のエンドポイント」として確保した格好だ。
スマートフォンとの直接接続における「顧客接点」の争いで、アマゾンはAndroid陣営を狙うスターリンクに対し、プレミアムユーザーが集中するiOSエコシステムを押さえるという非対称な競争軸を打ち出した。小平氏はこう評価する。
「これはプラットフォーム戦争の宇宙版です。衛星通信において、誰のデバイスと接続されるかが、最終的な価値の帰属先を決めます。アマゾンはグーグルがAndroidで地上の土台を抑えたように、アップルのエコシステムを活用して宇宙側の入口を掌握しようとしているといえます」
アマゾンの戦略をより大きな文脈で捉えると、その真の野望が浮かび上がる。アマゾンが衛星通信事業に期待するのは、個人向けのインターネット接続サービスだけではない。同社は、企業・政府・消費者向けの「継続的なコネクティビティ」を提供することを明言している。言い換えれば、衛星通信をAWS(Amazon Web Services)のインフラ基盤と統合することで、「宇宙から始まりクラウドで完結するサービスチェーン」を構築しようとしている。
物流ドローン、農業IoT、海上輸送管理、工場のリアルタイム監視——陸上の通信が届かない環境での企業向けデータ通信需要は急速に拡大している。スターリンクが個人ユーザーの獲得競争に注力する一方、アマゾンは産業インフラという高単価・高粘着のBtoB市場を正面から攻略しようとしている。
アマゾンは今回の買収により2028年にD2Dシステムを本格稼働させ、その後「数千機の高度衛星からなるネットワーク」で世界数億のエンドポイントを接続するビジョンを描いている。AWS上のAI処理能力と衛星通信を組み合わせれば、地球上のどこでもリアルタイムデータ分析が可能な「宇宙クラウド」が実現する。これは単なる通信事業者の機能を超えた、新たなデジタルインフラの設計図だ。
ただし、今回のM&Aが順風満帆に進むとは限らない。FCCのブレンダン・カー委員長は「審査に非常にオープンな姿勢」を示しながらも、規制当局として正式な審査を行うと明言している。買収完了は2027年の見通しで、それまでに複数の規制ハードルをクリアする必要がある。
また、イーロン・マスクが黙って傍観するとは考えにくい。スペースXはEchoStarからスペクトラムライセンスを複数取得するなど、自社の周波数確保を並行して進めている。
さらに構造上の矛盾も存在する。Amazon Leoは衛星打ち上げロケットとしてスペースXのファルコン9を含む複数のプロバイダーに依存している。サービス面では競合しながら、打ち上げ面では協力関係にある——この「捩れた共存」は、マスクが政治的影響力をいっそう強めているとされる昨今、脆弱な構造といえる。
小平氏は「スペクトラムの集約は、競争政策上の重大な問題を提起します。FCCがアマゾンの申請を承認するとしても、なんらかの条件を付ける可能性が高い。審査のプロセス自体が、アマゾンの事業計画に影響を与える変数になりうる」と警告する。