●この記事のポイント
1978年開業のハンズ渋谷店が2026年11月に閉店する。48年の歴史に幕を下ろす背景には、EC市場15兆円超への拡大とショールーミング化、タイパ重視の消費行動シフトがある。百貨店の二極化データも交えながら、大型リアル店舗の構造的課題と小売の生存戦略を読み解く。
株式会社ハンズが5月25日に発表した一報は、多くの人の記憶を揺り動かした。ハンズは、賃貸借契約の満了に伴い、2026年11月でハンズ渋谷店の営業を終了する。1978年9月の開業以来、48年余りにわたり親しまれてきた渋谷のランドマークで、渋谷特有の坂の地形を生かした24フロア・計408段の階段でつながるらせん状の構造が特徴だ。約10万SKUという膨大な品ぞろえを抱えた「迷う楽しさ」のある売り場は、昭和・平成の消費文化を体現する空間だった。
だが、この閉店を単なる「惜別のニュース」で終わらせてはならない。渋谷店の撤退は、大型リアル店舗が抱える構造的課題を凝縮した象徴的な出来事だからだ。
●目次
小売業の地殻変動を語るとき、百貨店は最も鮮明な縮図を提供してくれる。日本百貨店協会が発表した2024年の全国百貨店売上高は、既存店ベースで前年比6.8%増の5兆7722億円で、前年超えは4年連続。2019年比でも3.6%増となり、コロナ禍以降、初めて通年でコロナ前の実績を上回った。免税売上高は前年比85.9%増の6487億円となり、2年連続で過去最高額を更新した。
数字だけを見れば「百貨店の復活」に映る。しかし実態は全く異なる。引き続き富裕層や訪日客の旺盛な消費によって大都市の基幹店では過去最高の更新が相次いだ一方、富裕層や訪日客の恩恵が少ない地方や郊外の店舗の苦戦は変わらずで、2024年には島根県と岐阜県でそれぞれ唯一残っていた百貨店が閉店した。流通政策に詳しい戦略コンサルタントの高野輝氏は、次のように分析する。
「現在のリアル小売は、“広域から人を呼び込める店”と、“日常動線上にある店”に収れんしつつあります。中間に位置する大型総合店は、維持コストに対して集客効率が悪化しやすい。特に都市部では賃料、人件費、物流費の上昇が重く、巨大店舗を維持する経済合理性は急速に失われています」
インバウンド特需が都心旗艦店を押し上げる一方、中規模地方店は静かに消えていく――この構造はハンズが直面していた問題とも通じる。高い賃料と膨大な在庫を抱えて都心に広大な店舗を維持し続けることの難しさは、百貨店もハンズも同じ文脈で語られるべきだ。
大型店舗が直面するもう一つの構造的逆風が、EC(電子商取引)の浸透だ。経済産業省の報告によると、2024年の物販系BtoC-EC市場規模は15兆2,194億円(前年比3.70%増)に達し、EC化率は9.78%と前年から0.40ポイント上昇した。特に家電カテゴリーでは深刻で、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」のEC化率は43.03%と、物販系の中でもトップクラスの水準にある。
家電量販店や大型雑貨店で実物を確認し、その場でスマートフォンで最安値を検索してネットで購入する「ショールーミング」行動は、すでに多くの消費者に定着している。この構造のもとでは、一等地で高い賃料を支払い、膨大な在庫と人件費を抱えながら接客しても、利益だけがネット事業者に流れていく逆説が生まれる。